違和感に気づいたのは、『生き返ってから』三日目のことだった。
僕は世界にキスをする
05.Welcome to the another world!
「バンテーラ府中・・・・・・?」
本屋でその文字を見たときは、少し気になっただけだった。
聞き覚えがある、それだけだったのだが、その文字がサッカー雑誌の表紙に載っていたものだから、思わず手にとってしまう。
ページを開き、愕然とした。
「・・・嘘だろ・・・・・・?」
そこには、『ホイッスル!』の登場人物である周防将大がいた。
「死神っ!」
自宅に帰るなり、は思い切り声を張り上げた。
スニーカーを脱ぐのももどかしく、リビングへ走る。ドアを開ければ案の定、三日前と変わらない形をした死神がソファーに座っている。
その眼前に、購入してきたさっきの雑誌を突きつけた。
「何だよ、これ! なんで周防将大がこの世界にいるんだよっ!?」
「あら、今頃気づいたの? もうとっくに桜上水中にでも入学して、水野竜也とかと友達になってるかと思ったのに」
「水野竜也って・・・・・・!」
「もちろん、あの、水野竜也よ」
わざとらしく区切られた言葉に、まさかと言うことも出来ない。頭がオーバーヒートしてかのように、考えることを止める。雑誌を握る手が震えた。
半分の視界が暗く揺らぐ。倒れそうになるのを、踏ん張って堪える。
「ごめんなさい、言い忘れてたけど」
あからさまな嘘を吐き、死神は告げる。
「ここは、『ホイッスル!』の世界なのよ」
どうしてこんなことになっているのだろう。どうして、こんな目に遭わなくてはならないのだろう。
死んだとか、死んでいたとか、生きろとか、『ホイッスル!』とか、勝手なことばかり言って。
それでも「自由に生きろ」なんて、本当によく言えたものだ。
「『テニスの王子様』と迷ったんだけど、君はこっちの方がいいだろうと思って」
死神が、あっさりと言う。
「ずっと『ホイッスル!』みたいな世界でサッカーがしてみたかったんでしょう?」
「・・・・・・っ」
「この前言ったでしょ? この世界にあの女はいないの。好きなことやっていいのよ? サッカーだって無理やりにやらせようとする奴はいない。辞めたっていいの」
「・・・・・・ろ・・・」
「せっかくの状況だから、私としてはやることをお勧めするけど。知ってるのよ、私。君が『ホイッスル!』を読んで、風祭将みたいな子と一緒にサッカーをやりたがってたの」
「・・・・・・ゃめろ・・・」
「我慢しないで。ほら、一緒にサッカーボールを買いに行きましょう? 部活に入る? それともクラブユースがいい?」
「やめろって言ってんだろっ!」
伸ばされた手を、思い切り振り払った。握っていた雑誌が壁に叩きつけられる。
「その顔で・・・っ・・・それ以上喋んじゃねぇ・・・・・・!」
睨み付けてくる眼差しは、紛れもない嫌悪と憎悪を載せている。
普通の12歳なら持ち得ないその激しさに、死神はうっとりと微笑んだ。
本当ならば頬のひとつでも撫でてやりたいけれど、きっと振り解かれるだろうから堪えることにして。
代わりに、そっと囁く。
「いらっしゃい、『ホイッスル!』の世界へ」
ようこそ、異世界へ!
2006年4月28日