明けない夜はないなんて、よく聞くけれど
じゃあ、朝を知らない人間はどうしたらいい?
闇に生きている人間は、どうしたらいい?
僕は世界にキスをする
04.Still, I think myself who can eat to be foolish.
告げるだけ告げて、死神とやらはさっさと姿を消してしまった。
マンションに一人残されたは、ダイニングの椅子から立ち上がることも出来ず、叩き付けた拳さえ解くことが出来ない。
混乱していた。この状況についていくことが出来ない。自分が死んだなんて到底信じられない。
瞬間の記憶がないのが、一番の理由かもしれない。
殺された? どうやって? 絞殺? 刺殺? 毒殺? 撲殺? 何で。どうして。一体誰が。
――――――誰が、俺を殺した?
・・・・・・なのに何故、俺はまだ生きている?
訳もなく泣きそうになって拳をさらに強く握る。食い込んだ爪の先が痛くて、本当にどうしようもなくて。
ぐう、と間の抜けた音が聞こえた。
「・・・・・・腹減った・・・」
意識すれば、やけに空腹なことに気づいた。強張る拳をどうにか解いて、シャツ越しに腹を撫でる。
涙が出た。
冷蔵庫を開けてみたが、中には何も入っていなかった。
よくよく見回してみれば、確かに食器棚やクローゼットはあるものの、中にあるべき皿や洋服は一枚もない。
器だけあって中身がない。つまり買い物に行かなくてはならないのだろう。
着ていた服はファッションジャージの上下だったので、は死神に与えられた財布だけ持ってマンションを出た。
「えっと・・・・・・スーパーか、コンビニか」
道が判らないので、適当に歩き出す。そこではあまりにも基本的なことに気づいた。
「っていうか、ここ、どこだよ。関東? 関西?」
周囲を見回して電柱を見つけると、そこには『東京都新宿区桜上水』という標識が刻まれていた。
「桜上水・・・って、アレか。『ホイッスル!』の桜上水中があるところ?」
漫画の中とはいえ知っている地名であることに安心する。元々の住んでいたところは埼玉だったから、そう遠いところではない。
バス通りを目指していけば、駅まで近いことが判った。どうせなら、と思ってのんびりと足を運ぶ。
遠目にもいくつかのスーパーやデパートが見えた。コンビニだけではなくファーストフード店なども並んでいて、ポテトの香ばしい匂いが空腹を刺激する。
躊躇ったけれど、誘惑に勝てなくてはその店へと入った。初めて見るメニューに戸惑いながらも注文すると、店員の女性は笑顔であっという間にチーズバーガーセットを揃えてくれた。
財布を取り出して開ければ、そこにはちょうどの金額が納まっている。
「ごゆっくりどうぞー」
どきどきしながら店内を見回し、空いているカウンター席に座った。
「・・・・・・いただきます」
手を合わせてから、チーズバーガーの包装を剥がす。
初めて食べるファーストフードはとても美味しく感じられた。
それでもまだ、俺は愚かにも食べようとする。
2006年4月28日