掌からすり抜ける、過去
思い起こせない、記憶
焦れば焦るほど、上手くいかない
もがけばもがくほど、絡められる

自分は今、どこにいる?





僕は世界にキスをする
03.Where is ?





手が、動く。足も、腕も。
腹に触れればシャツ越しにも熱を感じる。動いている。それなのに。
「・・・・・・死んだ・・・?」
声も出る。思考も働く。失ったのは右目だけ。それなのに。
――――――それなのに。
足元がふらつく。視界が眩む。鼓動が不規則になり、脳が揺れる。生きている。なのに死んだ。一体、何故。
「・・・・・・何で・・・・・・」
顔を上げたは蒼白で、死神は僅かに目を細める。
「何、で。何で俺は死んだんだよ。病気はしてない。事故、か?」
「忘れているのなら思い出さない方がいいよ。碌な死に方じゃないから」
「・・・っ・・・殺されたのかよ!?」
「さぁ?」
「誰に!」
「知らない方がいい」
つまらなさそうに、どうでもよさそうに、死神は軽く髪を払う。
の険しい眼差しなど気にせずに、むしろ哀れむように、子供の目を見つめて。
「忘れるのは、忘れるだけの理由があるってことよ。そのうち嫌でも思い出す時が来るわ」
「・・・・・・っ」
「で、これからのことだけど」
追及の手を許さずに、話を変える。今はどうあっても聞けないだろうという空気を感じ、は唇を噛み締めた。
まだ、自分が死んだなどと信じられない。ましてや殺されたなど。
「君に与えられた猶予は三年。その間は好きに生きていいよ。衣食住の保障はするし、何かやりたいことがあるなら準備くらいは整えてあげる」
さんねん。唇だけが、そう動く。
「三年後に、もう一度決断するチャンスをあげる。このまま生きていくか、それともやっぱり死ぬか。生きる方を選んだ場合は、私たち死神からの審判が下される」
しんぱん。視線が、鋭さを増す。
「この三年間、私があなたを観察して、このまま生かしてもいいと思えば許可を出すし、死んだ方がいいと思えば死んでもらうわ」
「・・・・・・勝手に生かして、また勝手に殺すのかよ」
「そう言わないでよ。この世界なら君は好きなことが出来るのよ? 学校に通ったっていいし、思い切りサッカーをやったっていい」
びくりとの肩が震えたのを、死神は見逃さなかった。
励ますように、追い討ちをかけるように、優しくそっと、囁き告げる。



「・・・・・・君を縛り付けていた女は、この世界のどこにもいないのだから」



語尾に被さるようにして、鈍い音が響いた。
子供の小さな拳が、ダイニングのテーブルを揺らした。黒い前髪が目元にかかり、表情を隠す。
震えていたのは身体か、それとも心か。
の半分になった視界で笑っていた死神は。

彼の片親と、同じ形をしていた。




どこ
2006年4月25日