さぁ、拍手を送れ、歓声を上げろ
君を縛るものは何もない、君は限りない自由を手にしてる
拍手を送れ、歓声を上げろ
君を押し込めるものは、何もない
僕は世界にキスをする
02.right EYE that lost light
「死神・・・・・・?」
「そう、死神」
あっさりと頷き、女はソファーに腰を下ろす。
細い手で持ってを招くが、彼は警戒心を解かずにダイニングの椅子へと座った。
遠い距離に女は目を瞬き、楽しそうに笑う。美しい微笑は、どこか超然としたものだった。
「いつもは死んだ人間の魂を狩ってるんだけどね。でもたまにいるのよ、『生きてるのに死んでる人間』っていうのが。そういうタイプには二度目のチャンスを与えてあげるのも、私たちの仕事なの」
「俺が、それだって言うのか?」
「そう。君はまさにそのタイプ」
形の良い指が、まっすぐに指し示す。
「『生きてるのに死んでる人間』」
笑みは酷薄、指摘は残虐、心の奥底から掻き乱す。
大きく跳ねた鼓動が一つ、自らの心臓を苦しめだすのをは感じる。
それらを否定するように、彼は眼差しをきつくした。
「勝手に決めんじゃねぇよ。俺は生きてる」
「それは本心から言ってる? 少なくとも私の目には、君は死んでるように見えたよ。だからこうして私が来た」
「余計なお世話だ」
「でもどのみち、やり直すしかないよ? だって君は、もう死んでる」
「―――は?」
問い返す声は、それ以上の意味を持たない。
「だから、はもう死んでるの」
正確には死にかけ? 脳死状態、回復の兆し無し。ドナーカードを持ってれば、もう臓器提供してるでしょうね。
女は、死神は、そう言って笑った。楽しそうだった。笑い声がリビングを通じ、ダイニングに届く。の耳に、伝わる。
自分はもう、死んでいる? だったらこの身体は何。この、限りないスピードで鼓動を刻む臓器は。
「言ったでしょ?」
死神が、緩やかに唇を吊り上げる。
「君のように『生きてるのに死んでた人間』は、死んだ後にもう一度やり直すことが出来るの。身体の一部を対価として差し出すことでね」
あぁ、だから右目が見えないのか。
他人事のように、は思った。
光を失った右眼。
2006年4月25日