窓枠で切り取られた外の景色。
雲ひとつない空と、その下で輝く緑の木々。
庭を挟んで見えるいくつかの建物の中では、きっと職員たちが自分と同じように仕事をこなしているのだろう。
日番谷はそう思いながら、手の中の書類に筆を走らす。
署名することで決裁の終了したそれを一番隊まで持っていくよう、口を開く。
「おい、松本―――・・・・・・」
けれどそれは、最後まで言われることはなかった。

視界の隅、区切られた窓の向こう、建物を繋ぐ渡り廊下。
そこに二人の死神の姿を見つけて。



卯ノ花烈と、の姿を見つけて。











という男を日番谷が知ったのは、つい先日のことだった。
他隊へ用があって出向いていた乱菊が戻ってきた際、彼女の荷物を代わりに持っていた男。
背が高く容姿の良い、少し皮肉気な笑みの似合うその男は、日番谷とは違って色気を持つ『大人の男』だった。
軽い口調で言葉を交わし、艶めいた話題を難なくこなす。
乱菊はつっけんどんにあしらっていたけれども、本心で嫌がっている様子ではなかった。
むしろ心の奥では望んでいるような、女としての悦びに溢れた顔。
日番谷の初めて見るその顔は、乱菊が仕事中には決してしない表情だった。
理知的で公私の分別をしっかりつけている彼女の、そんな一面を引きずり出した男。
それが身体が弱く、度ある会議を欠席している四番隊の副隊長だと知ったとき、日番谷は思わず呟いていた。
・・・・・・ずるい、と。
彼が自分とは違う、『大人の男』だったから。



窓の向こうの渡り廊下を、卯ノ花烈とが歩いている。
はどうやら手の中に書類を持っているらしいが、卯ノ花も同じくらいの量の書類を抱えているように見える。
並んでいる二人は、それぞれに整っている容姿から、まるで一対の人形のようだった。
少なくとも日番谷にはそう見えた。

乱菊ととは、違って。

卯ノ花烈という死神が、日番谷はあまり得意ではなかった。
彼女はその穏やかな微笑とたおやかな挙動の裏に、何かを秘めているように思えて仕方ないのだ。
市丸に覚えるような、悪感めいたものとは違う。
もっと硬質で、透明な、冷ややかだけれども火傷しそうな熱を帯びた。
決意とも野望とも祈りとも言えそうなそれは、おそらく卯ノ花の根底を象っているのだろう。
近づけば斬られそうな鋭さに、日番谷はいつも戸惑いを感じ、二の足を踏んでしまう。
またそれは二番隊の隊長である砕蜂に対しても同じだった。

卯ノ花と砕蜂は、おそらく同じ側にいる。
そしても。

彼ら三人は、何かを共有している。
他人には理解できない――――――何かを。



人はそれを、絆と呼ぶのかもしれない。



渡り廊下を歩ききり、二人の姿が建物の中へと消えていく。
それを見送って、日番谷は視線を部屋の中へと戻した。
十番隊の執務室では自分の他にも多数の隊員たちが書類整理に精を出している。
一番近い机で仕事をしている乱菊を眺め、日番谷は席を立った。
「隊長? どうかされましたか?」
聞いてくる彼女の顔を、今は何故か見れない。
先程決裁を済ませた書類を手にし、部屋を横切って扉を押し開ける。
「・・・・・・散歩がてら提出してくる」
「判りました。いってらっしゃいませ」
送り出してくれる声に罪悪感が募った。

乱菊は良い女だ。
死神としても、おそらく個人としても、いい女だと日番谷は思う。
特別な感情を抱いているわけではないけれど、それでも己の副官として申し分ない。
だからこそ言えなかった。

おそらく乱菊がに恋をしている限り、彼女は彼の恋人になれるだろう。
けれど決して、特別にはなれない。
乱菊はの『特別』にはなれない。

彼女は彼の、傍にはいけない。

恋を捨てるか、人を捨てるか。
どちらがより幸せなのか。
日番谷は知らない。
知りたいとも思わない。
「・・・・・・やめとけよ、あんな奴」
思っていても言ってやれない自分は、おそらくどうしようもない上司なのだろう。
日番谷は唇を噛み締め、手の中の書類を強く握った。



願わくば、彼女が傷つかないように。





2005年2月3日