芽吹き、花開き、舞い落ちて朽ちる。
そんな美しい存在に、なりたくなんてない。
なるわけにはいかない。
花吹雪
護廷十三隊の上位官席。
女の身でそこに属することは、その者を『女傑』と称するに相応しい。
力と才が男と肩を並べるほどに長けた者は少ないく、だが女傑は存在しないわけではない。
十三隊の隊長と副隊長。今のその二十六人のうち、四人に一人は女なのだ。
だから可能性はある。目指すだけの理由と、それだけの実力があれば。
上位官席になることが出来る。
己の抱く矜持を汚すことなく、生きていける存在になれる。
思わず息を詰めて、砕蜂は目の前の人物を見返した。
出逢ったときから印象は変わらない。好きではないし、むしろ嫌い。
常に浮かべられている微笑。それが鎧なのだと知ったのは何時のことだったか。
学院で過ごしている五年のうちに、知ったことも確かに多い。
だからこそ、何時しか信じられる相手になっていた。
卯ノ花烈とは、好きではないが信頼するに値する人物だと砕蜂は思うようになっていた。
「もう一度言います」
柔らかで穏やかな声が、二人の間に響く。
「私は四番隊に入隊して、いずれは隊長になるつもりです」
卯ノ花の微笑は常と何ら変わらない。
だからこそ本気なのだと、砕蜂には判った。
死神統学院に入学する前から。
正確にいえば、死神になると決めたときから。
卯ノ花の抱いてきた目標はただ一つだった。
それは全死神の頂点に座す十三の地位。
護廷十三隊の隊長。
その名を手に入れることを卯ノ花は誓っていた。
誰にも口にしたことはなかったそれを、今話す。
自分が好敵手だと認めている相手に。
宣戦布告をもってして。
今年を学院で過ごせば、もう卒業。
この一年は今までの五年よりも格段に忙しいものとなるだろう。
何よりまず卒業して死神になるために、試験に合格しなくてはならない。
そのための勉強は必須だし、合格するだけの力はあると自負している。
だからあまり心配はしていない。
それよりも卯ノ花の気を引いて止まないのは。
「二番隊から、声をかけられているそうですね」
穏やかな卯ノ花の声に、砕蜂はかすかに眉根を寄せた。
今日の朝礼後に教師に呼ばれて内々に打診されたその事を、何故卯ノ花が知っているのか。
尋ねるようなことはしない。無駄なのだと、砕蜂はこの五年で学んでいる。
「おまえこそ四番隊から内定が出ているらしいな」
「ええ。私のこの力は、四番隊に入隊するためにあるようなものですから」
「私がどの隊に入ろうが、おまえには関係ないだろう」
「―――いいえ」
思いもよらずはっきりとした声音は、穏やかではない剣呑さを一瞬で含んだ。
息を呑みかけた己を戒め、砕蜂は顎を引いて卯ノ花を強く睨む。
「私は四番隊に入隊して、いずれは隊長になるつもりです」
一死神見習いが語るには相応しい、けれど『卯ノ花烈』が述べるには近すぎる夢を。
笑みを浮かべたまま、穏やかな声音で、決して消えることのない激しさを瞳に滾らせて。
卯ノ花は語った。
「私は、ただの死神で時を過ごすつもりはありません」
緩やかな風が、彼女の伸びた黒髪を揺らす。
二つに結ばれていたことの多かったそれは、今は一つのゆるい編みこみにされている。
五年の間に長くなった分だけ、砕蜂は同じときを共有してきた。
「力のない者は命令に従うことしか出来ず、それは己の矜持を汚します」
「だから隊長になるというのか? 随分と浅薄な考えだな。上に立てば好き勝手が出来ると本気で思っているのか?」
「確かに、上には上なりの柵があるのでしょう。ですが、それでも私はその地位を望みます」
砕蜂の挑戦的な反論にも、卯ノ花は笑って。
激動も苦悩も悲哀も、夢も未来も希望も、すべてを己の内へと押し込めるように。
「力があれば、それを使用するか否かという選択肢を得られます。・・・・・・・・・私は、それが欲しい」
微笑んだ卯ノ花に、砕蜂は今度こそ息を呑んだ。
「私は、私の気持ちを裏切らないでいられる力を手にしたいのです」
花が舞う。
美しく咲き誇り、見る者を魅了して散っていく。
同じ名を冠していながらも、卯ノ花はその光景が嫌いだった。
散って堪るかと思う。
自らの意志を貫き通すまで、決して散らぬ。
自らの喉が音を立てるのを、砕蜂は止められなかった。
迫力にか、決意にか、圧されている自分を感じて。
それすら微笑ましいものと思うかのように、卯ノ花が笑う。
「砕蜂」
――――――花が、開く。
「そのために私は、彼を望みます」
向かい合う卯ノ花と砕蜂。
・・・・・・・・・花が、開く。
2004年10月23日