拙い、と乱菊は思った。
一本一本が絡みつくようにして紡がれている指。
そこから熱が伝わってくる。全身を震わせるような、狂わせるような。
このままいけば、この熱がどうなってしまうのか知っている。
だからこそ、受け入れるわけにはいかないと思うのに。
完全に傷の消えた手の平を撫でられ、全身の力が抜けるのを感じた。
Feel So Bad?
「・・・・・・ちょ・・・ちょっと待って」
虚を相手にしているときからは想像も出来ないほど、押し返そうとする手には力がない。
乱菊が好きで弱めているのではなく、ただ力が入らなくて。
瞳が天井を映し出す。その視界の中で、数分前に会ったばかりの男が綺麗に笑った。
「今更、待ったはナシだろ」
頬を撫でてくる手は、さっき治療を受けたときと同じ安心感をもたらす。
それを知り合ったばかりのに与えられていることが、乱菊を一層困惑させていた。
押し返そうとしていた手を取られては、唇を寄せられて指先を含まれる。
赤い舌が自分の爪をなぞるのを見て、嫌悪とは違う感覚に背筋を震わせる。
頬が熱を持ってきて、このままでは本気で拙い、と乱菊は思う。
・・・・・・・・・流されてしまいそうだ。
「大丈夫だって。マジで気持ちよくさせてやるから」
「・・・・・・そういう問題じゃないでしょ。言っとくけど、ココ執務室よ? いつ誰が帰ってくるか分かったもんじゃないわ」
「帰ってこねーよ。それとも何? それは『邪魔の入らないところならオッケー』って意味か?」
「―――誰もそんなこと言ってないわよ!」
勝手な解釈に声を荒げるが、それすらも笑われる理由にしかならない。
は乱菊の長い髪を梳いて、ひどく楽しそうに笑う。
「アンタ、美人なくせして可愛いのな」
初めての言葉に乱菊が目を見張った瞬間、やわらかな唇が重なった。
少しだけ冷たい唇が、静かにゆっくりと触れ合っては離れる。
まるで子供同士が交わすような口付けは、乱菊の抵抗と警戒心を溶かしていく。
息がしたくて開いた唇から差し込まれた舌は、唇とは比べ物にならないほど熱くて。
容易に、乱菊を翻弄する。
髪に差し入れられた指が耳元を露にするように動き、首筋を辿るのを感じて、乱菊は微かに身体を震わせた。
その間もは角度を変えて口付け、深さを増していく。
「ん・・・・・・っ・・・」
堪えきれない吐息が喘ぎとなって零れ、部屋に響いた。
それがなおさら、羞恥心を煽って。
けれどもう、止められない。
大きく開いた死覇装の胸元に、そっと指が這う。
唇から離れ、頬や目元にキスを落としてくるの手は、彼の言動とは違ってひどく穏やかで優しい。
だからこそ乱菊はそれが堪え切れなくて、段々と下りていくの頭を抱きしめるように手を伸ばした。
クスリと笑う声が肌に響いて、それすら恥ずかしさと期待を込み上げさせる。
「・・・・・・マジでイイ女」
首筋の甘い痛みと肌を啄ばまれる感触に身震いしながらも、乱菊は気を抜けば喘いでしまう息を必死で抑えて。
「・・・・・・アンタこそ、結構イイ男じゃない」
やられっぱなしはムカつくので、それだけ言い返す。
愛撫に流されないよう笑うのも、かなり努力が必要だった。そんな乱菊を自身判っているのだろう。
だからこそ彼女の頬をことさら丁寧に撫でて、もう一度唇を合わせる。
首に腕を回してくる乱菊に応えて、は死覇装の開いた胸元から手の平を滑り込ませた。
乳房が形を変え、中央の飾りに指が届いて。
「ん・・・・・・ぁ・・・っ」
甘い声が響く。
ガチャリ
「さーん・・・・・・ただいま帰りました・・・」
四番隊執務室の扉を開けて入ってきた隊員一名と。
突然の闖入者に思わず固まってしまった乱菊と。
端正な顔を歪めてチッと舌打ちしたと。
三者三様、時が止まった。
最初に我に返ったのは、四番隊の隊員らしい小柄な少年だった。
「・・・・・・―――な、なななななななななななななななな・・・・・・・・・っ!?」
「出てけ、花。取り込み中だ」
「―――っ・・・」
の冷ややかな声が花と呼ばれた少年を一蹴し、行為はそのまま続行される。
巧みな指使いから与えられる快楽と、第三者に見られているという羞恥から乱菊の身体がどんどんと熱くなって。
「〜〜〜〜〜〜ぃい加減に・・・・・・っ」
本当は、乱入さえなければ最後までいってもいいと思ったのだけれど。
「放しなさいよ馬鹿っ!」
組み敷かれた状態から掌底を繰り出すが、は笑いながらそれを交わし、けれど乱菊の要求どおり彼女を放して起き上がる。
最後にさらっと肌を撫でていくことだけは忘れずに。
乱れた死覇装の胸元をかき合わせて、乱菊がギロッとを睨み、次いで先ほどから固まりっぱなしの少年を振り返る。
畳敷きだったそこから立ち上がると、問答無用を匂わせる雰囲気をまとって彼の元まで直進し。
乱暴に胸倉を掴み上げ、壁に押しやる。
発される霊圧はまぎれもない護廷十三隊副隊長のもので、少年がヒュッと息を呑んで硬直した。
「アンタ・・・・・・今ここで見たこと、誰かに話したら殺すわよ・・・・・・?」
「別にいーじゃねーか。どうせ減るもんじゃないだろ」
「アンタは黙ってる!」
後ろから茶々を飛ばしてくるを一喝すれば、その際に彼の死覇装の胸元が少しだけ乱れているのが見えた。
そうしたのが自分だと気づいて乱菊はさらに顔を赤らめ、それを隠すように不機嫌を装って少年に向き直る。
「・・・・・・いい? 喋るんじゃないわよ?」
「・・・わ・・・・・・っわかり、ました・・・・・・」
「そう、いい子ね」
パッと手が放され、壁に押し付けられていた少年が床にズルズルとしゃがみ込む。
救護を主とする四番隊の平隊員が、戦闘員である他の隊員の、しかも副隊長の威圧を至近距離で受けたのである。
滝の様に浮かんでいる脂汗と、小刻みな震えを見取っては小さく肩を竦めた。
「おい、花。休むんなら畳で休め」
「・・・・・・ぃえ、だいじょぶです・・・・・・」
「バーカ。見え見えの無理すんじゃねーよ」
大股で近づき、死覇装の首周りを掴んでひょいっと持ち上げ、そのまま畳に放る。
そして乱菊に向き直ると、片口だけを上げて笑った。
「ザンネン。邪魔が入った」
「こっちは助かったわよ。アンタなんかに流されずにすんで」
「へーぇ、よく言う」
あからさまなからかいを含んだ声に眉を寄せて睨もうとしたが、それより早く顎を掴まれて。
一瞬で目の前に現れた美貌に、乱菊は魅入るしかなかった。
「また来いよな」
劣情を思い起こさせるような口付けをして、は笑った。
何だかとんでもない男と知り合ってしまった気がする。
乱菊がそう思いながら四番隊執務室を出たとき、中から先ほどの隊員の声が聞こえてきた。
「さん、女の人が大好きなのはいいですけど・・・・・・入れ食いは止めた方がいいと思いますよ・・・?」
ピタッと足が止まって、乱菊の思考が一気に回りだす。
そういえば自分とあの男は初対面であって恋人などではなかったはず。
しかもあの男は自分が来る前に他の女と同じコトをしていたような。
・・・・・・それは、つまり。
「遊ばれたってコト・・・・・・・・・?」
地を這うよりも低い乱菊の声が響いた。
彼女が超絶不機嫌なまま十番隊に帰り、へのリベンジを誓うのは、これからすぐ後のこと。
2004年4月25日