ゆさゆさと揺さぶられる感触でリョーマは目を覚ました。
まだぼんやりとしている頭で、目だけをうっすらと開いて。
目の前にある、綺麗な顔。
セピア色の髪。
「おはよ、ダーリン。寂しいから早う起きてや」
甘い声で囁いたハニー。
・・・・・・・・・・・・・・・ハニー?
サプライズ・バースデー
ゴロンと頭を横に向ければベッドの隣に膝をついている親友の顔があって。
突然の侵入者にもリョーマの睡魔は離れない。
それはたぶん、安心しきっているから。
「・・・・・・・・・・・・?」
「せや。ダーリンってばもう夕方の4時やで? ちょお寝すぎやないの?」
「・・・・・・・・・」
「昨日のリョーマの誕生日会&クリスマスパーティーと称した宴会が終わったのが今朝の8時やろ? 9時から寝ててももう7時間は経っとるで」
「・・・・・・・・・」
「人間の睡眠時間は7時間が最適なんやと」
「・・・・・・・・・」
「せやから起きてや、ダーリン」
ニッコリと笑うのいつもと違うところにようやくリョーマは気がついた。
セピア色のサラサラの髪の上に乗っている、赤と白の帽子。
もしや、と思って視線を動かすと首から下も赤と白。
まさか、と思って身を乗り出せば腰から下も赤と白で。
男子にしては細い、だが鍛えられた足は黒のニーソックスが覆っていた。
これは、どう見ても・・・・・・・・・。
「サンタさんやで。可愛いやろ?」
ニッコリと笑ったにリョーマはガックリとうな垂れ、けれど睡魔はどこかに飛んで行ったのを感じていた。
ダダダダダダダダッという家を壊しかねない音が響いて、次の瞬間パァンッという素晴らしい音を立てて障子が開いた。
大きな目を吊り上げてこちらへと向かってくる息子に父親は苦笑して。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜親父ッ! 何にあんな格好させてんのさ!!」
「別に似合うんだからいいじゃねぇか。も喜んで着てただろ?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「あ、何だリョーマ照れてんのか。青春だねぇ、こりゃ」
南次郎が声を上げて笑うとリョーマは真っ赤になった顔で言い返そうと口を開く。
けれどそれは後ろからついてきた声にかき消された。
「え?何やダーリンってば照れとんの? シャイなんやから、可愛い!」
「だろ? どうだ、。将来はうちの息子の嫁っていうのは」
「え〜嬉しいけどまだプロポーズもされてへんし、こういうのってやっぱり男の人から言うてほしいやん?」
「何だまだなのかよ。何やってんだ、リョーマ。俺はオマエをそんな情けねぇ男に育てた覚えはねぇぞ」
「そないなこと言わないでや、お義父さん。リョーマはそういうシャイなところが可愛いんやから」
「まぁが言うならいいけどよ。ハネムーンはやっぱりアメリカか?」
「せやなぁ、リョーマの育ったとこも見てみたいし、やっぱそうなるんとちゃう?」
「だよなぁ」
サクサクと進んでいく会話。
それはめちゃくちゃ自分の意思を無視してくれていて、けれど楽しそうに話すと自分の父親にリョーマは思わずため息をつきたくなった。
けれどガシッと襟首を掴まれてそれも叶わない。
「さってと。じゃあちょっくらテニスでもしてくっか、なぁリョーマ」
煙草をくわえた相手にニヤリと笑いながら見下ろされる。
「はぁ? が来てんのにやるわけないじゃん」
「俺のことは気にせんといて、ダーリン。妻は夫の帰りを待っとるわ。早う帰ってきてや」
「じゃあ奥さん、旦那は借りてくぜ?」
「これで借金はチャラやで、金融さん」
ニッコリと笑ってが手を振る。
小柄なリョーマがジタバタ抵抗しても父親に敵うわけもなく、引き摺られていって。
「ちょっ・・・・・・!?」
「ちょお遊んできてや、ダーリン。また後で会おな」
「はぁ!? だから何で・・・・・・っ」
ズルズルと引き摺られてラケットとシューズまで持たされて、リョーマは実の父親に拉致された。
サンタクロースが見えなくなっていく。
パコーン・パコーンと気の抜けた音が境内に響く。
仏頂面でボールを返してくる息子に南次郎はあからさまに苦笑して、そしてさらにリョーマが不機嫌になる。
「何て顔してやがんだよ。そんなんじゃせっかくの奥さんに逃げて行かれるぜ?」
「誰が誰の奥さんだよ。第一なんでがいるのにテニスなんかしなくちゃいけないわけ?」
バシッと力任せにボールを打ち返して。
「そりゃあもちろんが望んだからに決まってんだろ?」
「が?」
父親の言葉にリョーマは胡散くさそうに眉を顰めた。
「そうさ。オマエを5時半までここに留めておくのが俺の役目ってわけだ」
「何で5時半なわけ?」
「そりゃ言えねーな。ま、精々楽しみにしてろよ」
ニヤニヤと笑う父親に思いっきりボールを打ち返して。
時刻はまだ、4時40分。
5時05分、越前リョーマはだんだんとミスが多くなってくる。
5時20分、越前南次郎は息子の様子に大爆笑しスマッシュを喰らう。
そして5時30分―――――――――――・・・・・・。
「ただいまっ!!」
ガラッと勢いよく玄関のドアを開けてリョーマが帰ってくる。その後ろには未だ大爆笑中の父親を連れて。
目の前には三つ折りついて正座しているサンタクロース。
「おかえり、ダーリン。ご飯にする? お風呂にする? それともワ・タ・シ?」
満面の笑顔に真っ白になるリョーマの後ろで、南次郎はさらに腹を抱えて笑い出し。
は呆然としているリョーマにバスタオルと着替え一式を持たせるとグイグイと背中を押して風呂場へと押し込んだ。
「ダーリン。背中は流せないけど、ちゃんと綺麗に洗うんやで」
楽しそうな声が風呂場の扉越しに聞こえてリョーマはさらに呆然とする。
手の中の着替え一式を呆気に取られて見つめながら。
けれどどう考えても逆らうことは無理と判断したのか、シャワーを浴びるためにシャツを脱いだ。
「いい匂いがするじゃねぇか。準備は出来たのか?」
「もちろんですわ。後は盛り付けるだけです」
はニッコリと笑って見せた。
シャワーを浴びてサッパリとしたリョーマが風呂場から出てくると、丁度居間から出てきたと出くわした。
リョーマを見つけるとはニッコリと微笑んで。
文句の一つでも言おうとしていた口を自然と閉じてしまう。
この笑顔に弱いんだよね、と心の中で言い訳したりして。
「ダーリン、ええタイミングや。さ、こっち来ぃや」
サンタクロースが手招きするのにリョーマは大人しく従って、の後をついていく。
鼻につく匂いに目を瞬かせて、リョーマはの袖を引く。
「」
振り返ったはニパッと微笑んでダイニングへのドアを開けた。
パァンッというクラッカーの音が鳴り響いて。
「ハッピーバースデー・リョーマ!」
盛大な紙吹雪が舞った。
大きなダイニングのテーブルに所狭しと並べられた料理にリョーマは目を丸くした。
そこには母親の好みから滅多に食べられない和食が何種類も並べられていて。
パッと見ただけでもリョーマの好物の焼き魚や茶碗蒸しも置いてある。
リョーマは驚きに何も言えなかった。
「どうや? 和食好きのリョーマのために完全和食メニューやで?」
サンタのが楽しそうに話しかける。
「いわしの蒲焼き、海老の茶碗蒸し、大根と鶏の煮物、ふきのキンピラ、ナスと牛肉のしょうが煮。ご飯は炊き込みもええかと思うたんやけど、ここはやっぱり白飯にしてみたんや」
リョーマを椅子に座らせて、豚バラの肉じゃがを取り分けて渡す。
戸惑った様子で見つめてくるリョーマに、はニッコリと微笑んで。
「昨日は部活でのお祝いやったやろ? これは、俺からリョーマへの誕生日プレゼントや」
そう言ってそれぞれの料理を取り分ける。
「リョーマさん、これ全部さんが作ったのよ。お料理上手なのね、私も感心しちゃった」
従姉が笑いながら言う言葉に曖昧に頷いて。
「リョーマは和食が好きだから、君が今夜の夕食は作らせてほしいって言ってきたの」
母親の言葉にも頷いて。
「いい嫁さんじゃねぇか。なぁ、リョーマ」
父親のからかいの言葉にも、今度はちゃんと頷いた。
自分を見つめて微笑んでいるに、リョーマも嬉しそうに笑顔を浮かべて。
「・・・・・・ありがと、」
お礼の言葉にも嬉しそうに笑みを返した。
「お安い御用やで、ダーリン」
結局その日はそのままお泊りということになり、も今はサンタからリョーマに借りたパジャマに着替えていた。
シングルのベッドに二人して寝転がって。
本来ならば窮屈になるはずだけど、平均より小柄で細い二人にはそうでもなかった。
「ねぇ、。将来は俺と結婚しようよ」
突然の台詞には目を丸くして。
「・・・何言うとんのや、リョーマ。俺は可愛い嫁さんもらうんやから無理やで、それは」
「でも以上に俺の味覚に合う料理を作れる人っていないと思うんだよね」
「せやったら専属コックやんか。もちろん給料は出るんやろな?」
「俺が世界ランキングで稼いだ金で払ってあげる」
「そんなん俺かて同じランキングで稼ぐんやから意味ないやん」
二人して声を上げて笑って。
「また、作ってよね」
「せやから給料払ってや」
「俺の愛でお釣りが来るでしょ」
ニヤリと笑ったリョーマにも笑う。
「せやな、まぁそれで我慢したるわ」
転がったベッドからは窓越しに綺麗な夜空が見えた。
「誕生日おめでと、リョーマ」
「ありがと、」
一日遅れのサプライズ・バースデー
来年も同じように過ごせますように。
同じことを願いながら二人は目を閉じた。
2002年12月25日