「英二、今日のお昼どうする?」
四時間目が終了したところで聞くと、英二はバタバタと慌ただしくお弁当箱を取り出した。
青のチェックのナフキンと、赤の。
・・・・・・・・・二つ?
「今日は出張! 不二も行こっ!」
大事そうにお弁当を持って、満面の笑み。
「それはいいけど・・・・・・どこに行くの?」
僕もお弁当を取り出して聞くと、英二は高らかに宣言した。
「とオチビのいる一年二組!」
―――手に持っていたお弁当を落とさなかったのは、不幸中の幸いかもしれない。
突撃☆ランチタイム
「ー! オチビー! 来ったよーん!!」
「ゲ。マジで来たんスか、菊丸先輩。しかも不二先輩まで・・・・・・」
「にゃにおう、オチビめ!」
英二が眉をひそめた越前にヘッドロックをしかける。
猫が二匹じゃれているような光景に、クラス中の視線は釘付け。
たしかに三年がいきなり一年生のクラスに来たら驚くよね。
それでなくともテニス部のメンバーは、それぞれ学校でかなり有名だから。
「こんにちは、菊丸先輩、不二先輩」
机を四つくっつけながら、が笑う。
笑いかけてくれてる。・・・・・・・・・僕に。
「はい、! お約束のお弁当だよーん!」
「・・・・・・ホンマに作ってきてくれたんですか」
「当然! のためだもんね。お安い御用!」
の向かいの席に座る英二は、試合で勝ったときにも滅多に見れないくらい全開の笑顔。
でも、僕は知っている。
英二がここにくるまで、すごく緊張していたことを。
一時間目の授業からどこか上の空で。
一年二組の扉の前で、三回大きく深呼吸して。
困ったような、泣き出しそうな、情けない顔で笑って。
『仲良くできるかな・・・・・・?』なんて弱気なことを言いながら、震える手でドアを開けた。
僕はそれを見て、胸が痛くなるくらいよく判った。
臆病になってしまうくらいに、英二はと親しくなりたいんだって。
四人で机を囲む。
の隣に越前。向かいに英二。そして斜め前に僕。
明るい笑い声と共に流れる時間。
「菊丸先輩、このオムライスめっちゃ美味いですわ」
「ホント!? よかったー」
「この唐揚げも美味いし。今度レシピ教えてくれません?」
「もちろんオッケー! じゃあ今度うちにおいでよ! お料理教室しよ?」
「はい、是非」
がニパッと笑う。
「俺も行く。の料理食べたいし」
あ、越前も参戦?
「の料理も美味いっスよ。この前食べた白身魚の香味蒸しとか、もう最高」
「マジ!? じゃあはそれ作って!」
英二の我侭に笑って頷いて。
「ええですよ。不二先輩もどうですか?」
・・・・・・・・・とっさのことで、判断が遅れた。
英二と越前が不思議そうにこっちを見てる。
いつもならここで「そうだね」とでも言って頷いておくのに。
完全に反応が遅れた。僕らしくもない失態。
これも、すべて。
僕が、に対して後ろめたい気持ちを抱いているから。
「ええ加減、気にしなくてもええんですよ」
の柔らかな声が耳に届く。
「不二先輩、まだ気にしとるんでしょう? 俺との試合、ノーゲームにしたの」
ギュッと手の平を握りこむ。
どうしても忘れられないソレ。僕の悔恨。
「あのままゲームしとっても不二先輩には勝てへんかったやろうし。俺がレギュラーになれへんかったんは、不二先輩の所為やないですよ」
むしろあの身の程知らずの馬鹿達やろ、とは笑う。
でも、やっぱり僕は。
今でも後悔してしまう。だってはあんなにもレギュラーになりたがっていたのに。
それを僕が勝手に潰してしまった。
そんな僕を・・・・・・許して、くれるの?
「許すも許さんも、そないな問題やないし。不二先輩がそれでも気にするんやったら・・・・・・一つ、条件」
ピッと指を立てて、は僕の好きな笑顔で笑ってくれて。
「今度は不二先輩がお弁当作ってきて下さい。俺に、愛情たーっぷり込めて」
・・・・・・いたずらっぽくウィンクするに、僕も自然と笑ってしまって。
「わかった。じゃあ明日さっそく作ってくるよ」
「ピンクのでんぶでハートとか作ってきて下さいね」
「LOVEって描いてあげるよ」
どうしよう。他愛ない会話がすごく嬉しい。
「・・・・・・不二先輩の味覚で大丈夫なわけ?」
「そーだよ! 不二ってめちゃくちゃ辛党だし!」
越前と英二が何か失礼なことを言ってるけど、でもまぁいいや。
今はすごく気分がいい。だから許してあげるよ。
出来うる限りの笑顔を、のためだけに浮かべて約束する。
「最高のお弁当を作ってくるよ」
・・・・・・うん。
僕、のこと好きだな。
2004年4月22日