セピア
試合の終わりを告げる声が空高く響いた。
「ゲームセット! ウォンバイ河村! 7ゲームズトゥ5!」
わあぁぁっと歓声が起こって、俺はホッと肩の力を抜いた。
ネットの向こうにいるのは、俺と25センチくらい身長の違う小柄な一年生。
君は空を見上げて息をついた後、少しだけ困ったように微笑んだ。
セピア色の髪が風に揺れてとても綺麗だったけど、その頬に張ってある絆創膏が少し痛々しくて。
けれど彼は俺に向かって明るく笑う。
「負けてしまいましたわ。俺も『まだまだだね』ちゅうことみたいです」
ニパッと笑って、同じ一年の越前の口癖を真似して言う。
俺もそれに少し笑ってしまって。
「そんなことないよ。すごく上手かったから」
握手していった言葉は本当。
実を言うと負けると思ってたんだ。
君のテクニックに俺のパワーは敵わない、と。
でも試合は俺の勝ち。
それはきっと・・・・・・・・・・・・彼が、万全ではなかったから。
「体・・・・・・大丈夫?」
俺の言葉に君は少しだけ目を丸くして、その後で肩をすくめて苦笑した。
「バレてたんですか」
一つ、頷く。
君はどこか自分の体を庇ってプレーしていた。
それはほんの少しの違和感だったから、注意深く見ていなければ気づけなかっただろうけど。
コントロールも、フットワークも、午前中の試合とは全然違って。
なのに君は何でもないように笑うんだ。
「体調を万全に出来へんかったんは俺のミスですよ。河村先輩が気にすることないです」
彼はそう言ってもう一度笑うと、ゆっくりとコートから出て行った。
「河村」
「・・・・・・手塚」
テニスコートから出たところで声をかけられて振り向くと、そこにはいつもより眉間にシワを寄せた手塚と表情を曇らせている不二がいた。
「・・・のことなんだけど・・・」
言いにくそうに口を開いた不二に俺も頷く。
「・・・・・・・・・調子が、悪いみたいなんだ。試合をしてても全然キレがないし・・・・・・どこか痛めてるのかもしれない」
手塚はさらに無表情になって、不二はうっすらと目を見開いた。
「僕、を探してくるよ」
そう言うより早く、不二はさっき君が去っていったのと同じ方向へと走っていった。
残ったのは俺と手塚。
そして言葉に出来ない、複雑な思い。
君のプレーは本当はもっとスゴイものなんだ。
コントロールが抜群で。
セカンドサーブでもノータッチエースとかどんどん狙ってきて。
本当に、本当にすごいプレイヤーなのに。
それなのに・・・・・・どうして。
勝ったけれど、嬉しくない。
これなら負けたほうが良かったのかもしれないよ。
全力の君と戦って負けたのなら、それでもきっと笑えるだろうから。
ねぇ、君。
2002年10月20日