セピア





負けた。越前リョーマとかいう一年に。
これで乾先輩に負ければレギュラー落ちだ。
・・・・・・・・・ちくしょう!
この足が、この足がもっと動けば、そうすればアイツにだって―――・・・・・・!
「やめときや、海堂先輩」
ラケットを振り上げた手を誰かに掴まれた。
この関西弁は・・・・・・。
ギロリとそちらを見れば、そこにはセピア色の髪をしたが立っていて。
そいつはその細腕からは信じられない力で俺の腕を拘束している。
「これ以上足痛めてどないすんですか。はよ手当てしましょ」
「・・・余計なお世話だ」
スゴんでみてもは怯まずに俺を見返して、掴んだままの腕を引っ張って近くのベンチへ俺を押し付けた。
しゃがみこんで反対の手に持っていた救急箱をパカリと開ける。
「ちょお染みるかもしれへんけど、痛かったら泣いてもええですから」
・・・・・・・・・誰が泣くか、このバカ。
俺がそう思っている間にも、は消毒液を取り出してテキパキと俺の膝の治療を続ける。
低い位置にあるセピア色の髪が光を浴びて金色に見えた。
「海堂先輩の足が悪いんやないですよ」
ガーゼを取り出しながらが言った。
「悪いんは足やなくてリョーマの考えを見抜けなかった海堂先輩自身ですやん。痛めつけるなら全身痛めつけへんとな」
不機嫌に顔をゆがめた俺を見上げてはニパッと笑う。
「体力が足りないんやったら走りこんで体力をつける。考えが及ばないんやったら試合経験を積んで予測を立てる。そーやってけば今度はもっとオモロイ試合が出来ますよ」
手当てをし終わって救急箱の箱を閉める。
・・・・・・・・・ケッ! そんなこと言われなくても分かってんだよ。
変なこと言いやがって、全く。



「おまえは・・・・・・次は河村先輩と試合か」
「ん、そーなんですわ。あの先輩えらいパワーありよるし、どないしよか考え中なんです」
はそう言いながらも楽しげに笑ってみせた。
こういう挑戦的なほどの前向き加減が、少し越前と似ていると思う。
自分に自信を持つ絶対的な瞳。



ふと気が付いて俺は手を伸ばした。
「おまえ・・・・・・その頬どうした」
左頬にピッと走った赤い線。
何かで切れたかのような切り傷。
はビクッと身を引いた後で笑顔を浮かべた。
「あーコレですか? さっきフェンスで擦ってしもたんですよ。俺も絆創膏貼っとこかなーって思いましてん」
そう言ってポケットから絆創膏を一枚取り出すと自分では見えない傷跡に器用にペタリと貼ってみせた。
そしてその場から立ち上がる。
「ほな、俺そろそろ行きますわ。海堂先輩も次のリョーマの試合見て乾先輩対策でも練って下さいな」
笑顔でそう言ってコートの方へと歩き出した。
俺は空を切った手をキツク握り締めて。



次のの相手は河村先輩。
その次は青学ナンバー2の不二先輩だ。
どこまで食らいつけるか見せてもらおうじゃねぇか。
俺は片方の口元を吊り上げてニヤリと笑った。



このときに気づければ良かったんだ。
今のがテニスを出来る状態なんかじゃねぇってことに。





2002年9月18日