セピア





桃や竜崎先生から話には聞いていたけど、スゴイ一年だと思ったよ。



俺が大きく打ち上げてしまったボールを、一年生の部員がカゴへと勢いよく打ち返した。
白い帽子にFILAのマーク。
「案外簡単だね」
どこか楽しそうに言った彼に俺も小さく笑みを漏らす。
きっと彼が越前リョーマなのだろう。
反感を抱いた二年生が彼に歩みかかろうとしたのを一人の少年がさえぎった。
セピア色の髪・・・・・・・・・
彼はその髪の色と関西弁、加えて整った容姿で今は学校中の有名人だ。
「まだまだやな、リョーマ。勢い強すぎてボールが2・3個カゴから落ちてしもうたやん」
「じゃあ今度はがやってみせてよ」
「おっしゃ、任せとき」
はくるりとこちらを向き、大きく手を振ってきた。
「すんませーん! 俺にも一球打ってもらえますー?」
「いいよ」
手を振る姿が可愛らしくて、俺は一球軽く打ち上げた。
大きな弧を描く黄色いボール。
「リョーマ! よっく見ときや!」
そう言って彼はボールに向かって走り出した。
テニスシューズが地面を蹴って、シルバーのラケットが振り下ろされる。
スマッシュの要領で返されたボールは一直線にカゴへと向かって――――――。
「・・・・・・入んないじゃん」
越前がポツリと呟いた。
の打ったボールはカゴの奥へと外れて中には入らなかった。
けれどは不敵に笑う。
「アホ、まだや。よーっく見とき」
その表情がいやに自信たっぷりで。
俺がボールに目をやると、ボールはカゴから離れた場所のまま跳ね返ることなくそこにいた。
跳ね返ること、なく。
それはあまりに不自然すぎると思って目を凝らせば。
「・・・スピン・・・・・・!」
ボールはものすごい勢いで回転していた。
それがだんだん弱まっていったかと思うと、ポンッと軽い音を立てて上に跳ね上がった。
そしてスローモーションのようにゆっくりと籠の中へと収まって。
「ホラ見ぃや。言ったとおりやろ?」
自慢げに笑うに俺は呆気に取られてしまって。
見れば英二や不二たちも驚いたように彼を見ている。
ハッと我に返ったときには二年生が越前とに絡んでいて。
止めようと足を踏み出した瞬間、凛とした声がコートに響いた。
「何をしている」
振り返ればそこにはやっぱりと言うか何と言うか手塚がいて。
こりゃグラウンド10周かな、と思っていると、口答えをしたからか20周になってしまっていた。
二年生は走りに行ったが、越前とは驚いた顔で手塚を見ている。
「・・・あんさん、テニス部の部長やったんか」
の言葉に手塚は眉間のシワを増やし、疲れたように声を出す。
「・・・・・・おまえもテニス部に入部したのか・・・」
「そーなんですわ。これからよろしゅう頼んます、部長さん」
知り合いなのか? 手塚とあの二人は。
「つーか今度は笑顔で出迎えて欲しいって言いませんでしたっけ? 俺」
・・・・・・・・・・・・・・・・・越前、手塚にそんなこと言ったのか!?
「あかんって、リョーマ。それは部長さんのキャラとちゃうやろ。こういう人は忘れた頃にフッと笑うから人気が上がるんや」
「でも中学生でこの眉間のシワはどうかと思うけど」
「リョーマ! それは言うたらあかん!部長さんにも色々苦労があんねん。みんなが帰った後の部室で一人黙々とレギュラージャージ繕うたり、足りない部費のために造花作ったりゲイバーでバイトしたりしとんのや」
手塚・・・・・・・・・そんなことしていたのか・・・・・・・・・。
ってそうじゃなくって!!
、その発想は一体どこから来たんだ!?
英二や不二、果ては海堂まで肩を震わせて笑いを堪えてるぞ。
・・・・・・というか俺もそろそろ限界が・・・・・・・・・。
「たしかにこの容姿なら簡単に年齢もごまかせそうだしね」
え――――――ち――――――ぜ―――――――ん―――――――――ッ!!!
今の台詞で英二と不二と桃は声を上げて笑い出した。
ゴメンな、手塚。俺ももう限界だ。
「おまえら・・・・・・・・・!」
あぁ手塚、本当にゴメンって。
「おまえらグラウンド80周だ!!」



そうしてその日の部活はグラウンドを走るだけで終わってしまった。
本当に『スゴイ』一年が入ってきたね。
こりゃ大変だ。





2002年9月12日