争奪★青春18切符
何だかとても上手く乗せられたような気がしないでもないが、NERVの寮に住むことになったエヴァンゲリオンパイロット一同。
心が一つになった彼らに、ミサトは一枚の紙を提示する。
「これがあなたたちの寮よ。ワンフロアがパイロット専用になるから、部屋割りは自分たちで決めてね?」
我先にアスカとルナマリア、そしてレイがその紙を奪った。
書いてあったフロアの見取り図はこうである。
一つの長方形の建物。
中央に階段があり、下れば食堂や購買、上れば他の職員の宿舎に繋がっている。
右の手前には五つ部屋があり、その向かいには四つ。
左の手前にも五つ部屋があり、その向かいにはやはり四つ。
そして階段の正面には、一つの大きな部屋がある。
総数19室。それがこのフロアの配置だった。
「・・・・・・ミサトさん、何でこの部屋だけ広いんですか?」
階段の正面にあたる、他の部屋の三倍弱の部屋を指差してシンジが尋ねると、ミサトはにやりと笑った。
「あぁ、その部屋は二人部屋なの。だから君とカヲル君にはそこを使ってもらうことになるわ」
一つになっていたパイロットたちの心が、砂漠の砂ほどに砕け散った。パリーン。
「何故! 何故!? 何故さんがダブリスなんかと同室なんですか! 何か恨みでもあるんですか! むしろ恨んでもいいですか!? 恨みます! 俺が! あなたを! フォース・インパクトがごとく恨みますっ!」
「・・・レーイー・・・・・・」
ついさっき寮を嫌がったアスカ以上の迫力で、レイがミサトに食って掛かる。どこか遠くを見ながらのシンの言葉も彼にはまったくもって届かない。
「さんだって嫌ですよね!? ダブリスなんかと同室なんて嫌ですよね!? お願いします嫌と言って下さい!」
必死な形相でレイがを振り返る。その顔面はもはや蒼白を通り越して土気色だ。
アスカやルナマリア、ステラもじっとを睨み―――ではなく、見つめている。他の面々たちも自然とを見る中で、穏やかな笑顔を浮かべているのはもう一人の張本人、カヲルだけだ。
珍しくもはっきりと顰められている眉と重苦しい沈黙が、の心中を物語っている。
「・・・・・・・・・葛城三佐」
「なーにー? 君」
「自分と奴が同室にならなければならない理由を聞かせて頂けますか?」
「いーわよー? 君とカヲル君が同室になる理由は、あなたたちが複座の四号機のパイロットだから。コンビネーションを高めるには互いを知り合うのが一番じゃない?」
「では、自分は綾波と同室になります。最近のシンクロ率は奴との値ほどではありませんが、十分な記録を残していますので」
の眼差しがすいっと綾波に向けられる。黙って話を聞いていた彼女は、ミサトからも視線を向けられ、浅く頷いた。
「・・・・・・私は構いません」
しかしここで黙っていられないのが恋する少女であり、『チャンスの増加』を狙って寮入りを決めた面々である。
「はぁ!? 何でファーストがと同室になるのよ!」
「男と女で同室になれるわけないでしょ!? ちょっとは考えなさいよっ!」
「っていうかアンタもフィフスで我慢しなさいよ! 我侭言うなんて最低っ!」
おまえに言われたくない、とこの場にいた誰もがアスカの台詞に突っ込んだだろう。シンジなどは思いきり深い溜息を吐き出したほどだ。
けれど当の二人は彼女らの剣幕にも表情を崩さず、綾波は逆に静かに問い返した。
「・・・・・・どうして、私と彼が同室になっちゃいけないの」
「どうしてって・・・! そんなの、アンタが女でが男だからに決まってるでしょ!」
「だから、どうして男と女じゃだめなの」
じっと目を合わせてくる綾波に、アスカがぐっと言葉に詰まる。
もはや少年たちのほとんどはギャラリーに回っていた。ディアッカなどは綾波の問いにどんな答えが返されるのか、笑いながら待っている。
「とっ・・・年頃の男と女が一緒に住むなんて拙いに決まってるじゃない! こいつだって男なのよ!? アンタ、襲われても構わないって言うの!?」
ルナマリアの反論に、綾波は先程のと同じようにすっと眼差しを彼に向けた。紅の目と漆黒の目が重なり、少しの沈黙の後でレイが呟く。
「・・・・・・構わないわ、君なら」
ヒュウッと口笛が飛んだ。アスカとルナマリア、そしてあまりの勢いに会話には入れなかったけれど、ずっと近くで成り行きを見守っていたステラが目を瞠る。
次の瞬間、彼女たちの顔色を塗り替えたのは完全な嫉妬だった。はっきりとそう言い切る事が出来る綾波への、そして本人に悪く思われていない彼女への妬み。
一触即発の雰囲気の中、さっさと間取りに名前を書き込んでいるニコルは図太いといっても過言ではないだろう。
「じゃあ僕はピアノ部屋も欲しいんで、右手階段側の奥二部屋を貰いますね」
「・・・・・・シャニは逆に左手階段側の奥だな。こいつはガンガンにステレオかけるから」
「僕、日当たりが良い方がいいから階段側じゃない方の部屋ー」
「僕も南側。でもって出来れば階段に近いとこー」
「アスランとキラはどこにしますか?」
「え・・・・・・じゃあ俺は、ニコルの向かいの角部屋で」
「僕は・・・・・・アスランの隣にしようかな」
「中央の部屋の両隣とその向かいは残しとくだろ?」
「そうっすね、どのみち女は四人いるんだし」
「あ、それ、レイも計算のうちに入れといて」
「早い者勝ちだな。俺はニコルの隣にするぞ」
「静かだもんなぁ。じゃあ俺、イザークの向かい」
「シンジはどうすんのー?」
「え? でも、カヲル君は・・・・・・」
「僕のことは気にしなくて良いよ、シンジ君。と同室になるからね」
「・・・・・・そうなの?」
「そうだよ。僕がリリスにだけ良い思いをさせるわけがないだろう?」
にこりと微笑み、カヲルは一触即発が続いている異次元空間へと向かっていく。あまりに刺々しい空気を直視していることが出来ず、シンジもペンを片手に逃避した。
「じゃあ、僕はここで・・・・・・」
悲鳴とか何かを殴る音とか机の倒れる音とかしたけれど、それはきっと幻聴だろう。
少年たちの中でも一部気の強くない彼らは懸命に少女たちから目を逸らしていた。
戦いはミサトがコーヒーや紅茶をカップ二桁になるまで飲み、見学に来た赤木リツコが煙草を一箱空にするまで続いた。
その結果はが心底嫌そうに顔を歪め、カヲルが心底楽しそうに笑顔を浮かべることで落ち着いたのだった。
結局部屋割りは以下の通りになりました。上段が南側、下段が階段側。並び順が部屋順です。誰が我侭を言ったのか良く判る間取りだ・・・。
オル / クロ / アウ / ルナ / &カヲル / アスカ / ディア / キラ / アスラン
シャニ / スティ / 碇 / 綾波 / ステラ / 階段 / レイバレ / シン / イザ / ニコ / ニコ2
2006年5月1日