争奪★青春18切符
その日、隊ごとにシンクロ率の定期チェックを受けた後、エヴァンゲリオンパイロットたちは会議室へと集められた。
これは実はかなり珍しいことである。パイロットは零隊七名、壱隊六名、弐隊六名の総勢19名からなる大所帯であり、基本的に各隊ごとに動くのだ。
一堂に会した同僚たちを前に彼らも十代の少年少女、俄かに騒がしくなるのも仕方がないことだろう。
キラやアスランはイザーク・ディアッカ・ニコルと話に花を咲かせ、シャニとクロトの掛け合いにオルガは溜息を吐く。ステラをからかうアウルをスティングが収め、渚カヲルと碇シンジはのんびりと笑顔を交し合っている。シンはレイと話していたが、加わってきたルナマリアと惣流・アスカ・ラングレーに逆に畳み掛けられている。
中にはや綾波レイのように黙って座っているだけの者もいたが、うるさいという言葉が充分に匹敵する会議室に、現れた葛城ミサトは苦笑した。
手にしていたファイルで机を叩くことで、彼らの視線を集める。すぐに話を止めたところは、若くてもさすがパイロットか。
「はーい、今日は集まってくれてありがとー。それと定期チェックお疲れ様」
「前置きはいいわよ、ミサト。それより何なの、こんなとこに集めて」
「あら、アスカにとっては良い知らせよ? それとたぶん、何人かの子にはね」
心底楽しそうににやりと笑い、ミサトは一言で彼らを集めた理由を告げた。
「あなたたちには来週から、NERVの寮に入ってもらいます」
え、と驚いて口を開けた者、嫌そうに眉を顰めた者、にこりと嬉しそうに微笑した者。
反応は様々だったが、ミサトはそれらを見逃さずに眺めながら話を続ける。
「前々からこの話は上がってたのよねぇ。あなたたちは今、一人暮らししてたり家族と住んでたりしてるけど、出撃の度にそこから来てもらうと時間がかかって仕方ないのよ。だから全員NERVの寮に入ってもらおうと思って。ちなみにシンジ君とアスカ、あなたたちもうちから出て行ってもらうから」
「・・・っ・・・ちょっと待ってよ! 何よそれ!?」
「だから、碇司令とゼーレからのお達しなのよ。パイロットたちの交流を深めるのにも役立つだろうからって」
「はぁ!? ふざけないでよ!」
アスカはいきり立って文句を募らせるが、『碇司令』と『ゼーレ』という名前が出た時点で、すでに綾波とは落ちている。例え不服だとしても彼らがそれぞれの名に逆らうことはない。義父であるデュランダルがゼーレに名を連ねているレイとて、それは同じだ。
元々寮に入っているカヲルとシンは論外。はいはーい、と元気よくクロトとアウルが手を挙げる。
「ご飯はどうなんの!?」
「部屋にミニキッチンがついてるから自分で作ってもいいけど、食堂があるからそれを使えば楽よー」
「広さどれくらい!? どんな部屋!?」
「10畳のワンルーム。ミニキッチンとクローゼット、ユニットバスがそれぞれの部屋についてるわ」
ミサトは説明するが、シャニは半ば夢の中だし、ステラは何もいないはずの天井隅をじっと見ている。
しかしオルガとスティングは顎に手を添え、真面目に熟考しあっていた。
「買い物はNERV内の購買で出来るとして、学校までどれくらいかかるんだ?」
「15分ってとこっすか? 寮だから部屋代は格安だし、俺たちはパイロットだから三食はカードでフリーパスだし」
「一人一部屋だから、掃除も各自だな」
「洗濯も各自っすよね?」
「腹減ったから何か作れって言われることもねぇ」
「アウルやシャニさんが作った不味い料理も食べなくて済む」
結論を下すまでに、大して時間はかからなかった。いっそ爽やかな笑顔を浮かべそうなくらいの勢いで、二人は了承の意を示す。
「葛城三佐、俺たちも寮に入ります」
「オッケー。ってことは必然的に一緒に暮らしてるクロト君・アウル君・シャニ君・ステラも寮でいいわね?」
まぁ一人暮らしが出来るなら話は聞くけど、と言われて胸を張ってイエスと答えられるほど、名を挙げられた四人は生活能力に秀でていない。
ミサトは手元の書類にペンを走らせつつ、残りの面々を振り返る。
「キラ君とアスラン君はどーお?」
「あ・・・・・・僕は大丈夫だと思います。カガリが一人になっちゃうけど、たぶんカガリだから大丈夫だろうと・・・・・・思う、し」
「気になるコメントねぇ。アスラン君は?」
「大丈夫です。うちは父だけですので」
「イザーク君とディアッカ君は?」
「任務ならば仕方ありません。母上も認めて下さるでしょう」
「イザークに同じー」
ふむふむ、とミサトは書類に書き込んでいく。
「ニコルくーん」
「一つお聞きしたいんですが、ピアノの持ち込みは可能ですか?」
「望むならもう一部屋用意するわよー?」
「じゃあお願いします。ありがとうございます」
「あたしも平気です。うちは家族で住んでますからメイリンも一人にならないし」
「ルナもオッケー。さーて」
ファイルを閉じ、ミサトは残る二人の方を向く。全身で怒りを露にしているアスカを前に、余裕ありげに両腕を組んだ。
「先にシンジ君から聞こうかしら。シンジ君はどう? 寮に入るの嫌?」
「僕は・・・・・・別に構いませんけど・・・」
少し口篭り、シンジはひどく不安そうに言葉を続ける。
「でも、僕とアスカがいなくなると、毎日朝からビールを飲んでるミサトさんの食生活が本気で崩壊しちゃうんじゃないかと、それだけが心配で・・・・・・」
「余計な心配はシナクテヨロシイ。あたしだって伊達に20何年も生きてないわよ。それで? アスカは何が不満なの?」
残る一人に向けてミサトが話を振ると、待っていましたとばかりの剣幕でアスカが怒鳴りだす。
「不満!? そんなのありすぎるに決まってるでしょ! 今でさえミサトのせっまいマンションで我慢してるのよ!? それなのに今度はNERVの寮!? 学校とNERVの往復ばっかであたしの青春はどうなるわけ!? しかも寮なんてプライベートがあってないようなものじゃない! そんなとこで暮らせ!? ハッ! 馬鹿にするのもいい加減にしてよね!」
「狭くて悪かったわねー。でも悪いことばかりじゃないと思うわよ?」
「はぁ!? そんなのあるわけないでしょ」
「そんなことあるわよ。たとえばぁ」
真骨頂というように、ミサトは室内の少年少女たちを見回して笑った。
「好きな人といる時間が山のように増えたり、とか?」
隊が違ったりしても、寮ならチャンスが山盛りになるわよねー。
そんなミサトの言葉に、アスカだけでなくエヴァンゲリオンパイロット一同(というか一部)はわずかに沈黙し、そして青少年少女らしく盛大にイエスと叫ぶのだった。
零隊:綾波・・ニコル・オルガ・レイバレ・スティング・渚
壱隊:シンジ・キラ・アスラン・シャニ・シン・ステラ
弐隊:アスカ・イザーク・ディアッカ・クロト・ルナマリア・アウル
基本的に運命キャラは種キャラの後輩に当たります。故にスティングはオルガに対してちょっと敬語。
2006年5月1日