06:居なくなるとなると、寂しい
ちょっと目を離した隙に、レイが消えた。
店の電話を取り、慣れた様子でボタンを押す。直通で繋がる番号は出る人物が限られている。
予想に違わず聞こえてきた声に、は一言だけ告げた。
「レイが逃げた」
一瞬だけ沈黙が起こり、次いで受話器の向こうが騒がしくなる。
喧騒が耳に響いたが、は舌打ちすらせずに、それを切り捨てた。
相手の都合など構わずに先を続ける。
「ガキの足だ、そう遠くには行っていない。金髪碧眼の妙に礼儀正しい五歳児だ。見つけ次第捕獲しろ」
冷ややかな怒りが電話口でさえ伝わり、相手方が息を呑む。
「あのガキに伝えておけ」
漆黒の眼を僅かに細め、は言った。
「『俺は絶対に迎えに行かない。おまえが俺の息子でいたいなら、自分の足で帰って来い』―――ってな」
それだけ告げて、電話を切る。
時間にすれば一分少々だっただろうに、やけに機嫌が苛立った。
考えるのも面倒くさい。今日はイザークだかディアッカだかが食事に来るはずだったが、ムカつくのでそれも却下だ。
寝て過ごそう。そう考え、はソファーの上に乗っている絵本を蹴り落とそうとして。
・・・・・・・・・拾い上げ、テーブルの上においてやる。倒れこむようにしてソファーに横になり、目を閉じた。
何かムカつく、と思いながら。
帰ってきた子供がぼろぼろと面白いくらい泣いて、百回くらい謝って、脱水症状を起こしかけたら言ってやろう。
血が繋がってなくても、おまえは俺の息子なのだと。
だから勝手にいなくなるんじゃないと言って、尻でも引っ叩いてやろう。
そう考え、は眠りに落ちた。
次に彼が目を覚ますのは、レイの泣きながら謝る声によってだった。
2006年1月22日