03:なんかこうやってると本当の親子みたいだね
レイという子供は、何故か自分によく懐いた。
それは初めて店先で会ったときから変わりなく、一体父上―――レイにとっては祖父に当たる―――クルーゼは何を言ったのかと疑問さえ浮かんでくる。
冷たくあしらっても泣いたりしない。それどころか適当な距離を探るかのように、地道なコミュニケーションを重ねてくる。
五歳児とは思えない行動だが、ちまちまと動いているのは見ていると楽しい。ところどころ綻びている幼い言動も、中々に見ものだった。
良い玩具が来たものだ。はそんなことを考えながら、日々レイを観察していた。
カフェは年中閉店だし、限られた客は来る前にほとんどが連絡を入れてくる。
材料の仕入れは電話一本で済むし、面倒なことを厭うは住居も兼ねている店からほとんど外に出ることがない。
けれどその日は別だった。ここ最近はレイを観察することで暇を潰していたのだが、コレを街中に連れて行ったらどういう反応をするのか見てみたくなったのだ。
扱いは息子というより、むしろ珍獣。その珍獣に自分の幼い頃の服を着せ、外へ連れ出す。
店から少し歩いて表通りに出れば、静かな自宅からは想像できないほどの喧騒が広がっている。
行きかう人々、色とりどりの店先、走る車などにレイの目が輝く。
なるほど、こういう顔をするのか、とは研究結果を見るかのようにレイを眺めた。
「行くぞ」
「あ、はいっ」
歩き出せば、小さな足音がついてくる。小走りなそれに昔を思い出して振り返った。
きょとんと見上げてくる子供は小さい。ちまい。身につけている服は、クルーゼが幼かった自分に買ってくれたものだ。
あのときは、そう、今みたいに一緒に買い物に出て、そして。
「・・・・・・・・・ほら」
「っ!」
「迷子になりたいのか?」
「い、いいえっ!」
驚いたように目を見開き、嬉しそうに笑って全身で手のひらに抱きついてくる。
まさに幼い頃の自分を見ているようで、は何だか複雑な気分になった。
きっとこうなることを、クルーゼは予測していたのだろう。
ならばきっと、今は飼い主と珍獣でも、そのうち本当の親子のようになれるかもしれない。
とりあえず珍獣からペットに格上げしてみたレイを引きつれ、はそんなことを考えるのだった。
2006年1月22日