02:『まさかお前本当に産んだ?』と聞かれたのは今で10回目だ
首都の中心部、けれど寂れた路地裏にある小さなカフェは開店するということがない。
ドアには常に「CLOSE」の札がかけられており、窓から覗き見る店内は薄暗い。
表通りに行けばもっと多くの店が並んでいるのだし、客たちは当然のようにそちらへ足を向ける。
カフェは開店することがなかった。けれど、それでよいのだ。
この店に入ることが出来るのは、限られた人間だけなのだから。
広くない店内の中、ソファーでくうくうと眠っている子供を見て、イザークは息を呑んだ。
「・・・・・・・・・まさか、」
「その台詞で10回目だ」
すべて言わせることなく、は不機嫌な声音で吐き捨てた。
イザークはその様子に僅かに申し訳なく思いながらも、運ばれてきたロールキャベツを食べるべくカウンター席に座る。。
コンソメであっさりとした味付けのそれが、イザークはとても好きだった。
パンとサラダ、飲み物を揃え、はカウンター越しのキッチンの中で丸椅子に座る。
「父上が旅先で拾われ、ここへ来るよう指示したらしい」
「・・・・・・生きていらっしゃったのか、クルーゼ先生は」
「無礼な発言だが、正直俺もそう思わないでもなかった。アレの話ではアフリカ大陸で会ったらしいが」
「・・・・・・・・・元気そうで何よりだ」
「あぁ。だが、問題は別にある」
端整な顔を歪め、は忌々しげに更なる事実を告げた。
「父上の勝手な養子縁組の所為で、アレは俺の息子になったらしい」
つまりは20歳にして一児の父となったわけだ。
苦労するな、とイザークは言いかけたが、更にが不憫になりそうな気がしたので、ロールキャベツと共にその言葉を飲み込んだ。
2006年1月22日