06:her deadline
倒されたのだと理解したのは、逆転した視界の中に叫ぶ妹の姿が映ったから。
背中に感じる、床の冷たさ。見上げる天井の手前、赤い髪が見える。
自分よりも赤い、血のような紅。
「な・・・・・・っ!?」
「やだ、よっわーい。これくらいの蹴りも避けられないの?」
女が笑う。赤い髪が黒の隊服に映えて、それがルナマリアの怒りを煽った。
瞬時に距離を取り、立ち上がる。止めようとするシンやタリアが見えたけれど、そんなもの関係なかった。
目の前の、自分を倒した女がやけに憎たらしすぎて。
「あんた、いきなり何のつもりよ!?」
「別に? を侮辱するから、叩きのめしただけだけど?」
「なっ・・・それだけで!?」
ルナマリアは意気込むが、女―――フレイは自身の髪をかき上げ、そっけなく答える。
吊り上げられる唇は綺麗なルージュに彩られていて、余裕の様が更にルナマリアを挑発した。
短いスカートが翻るのも気にせず駆け出す。フレイがタイトスカートのスリットをずらし、滑らかな曲線を露わにさせる。
ぶつかり合った足は、第二撃を用意していたフレイの勝ちだった。
拳が容赦なくルナマリアの頬に中り、見事に彼女を吹き飛ばす。
「弱いのに粋がっちゃって、馬鹿みたい」
壁に叩きつけられたルナマリアに、シンやメイリンが駆け寄る。
フレイはただ楽しげに、それでいて不快そうに唇を歪めた。
「あたしの前での悪口を言わないでくれる? 次はこのくらいじゃ済まさないから」
告げられたのは警告。それはとても、愛に満ちた。
「殺しちゃうかもしれないわ」
美しい殺意。
ブリッジに沈黙が広がる中、静かな声が彼女を呼んだ。
「フレイ、帰るぞ」
「はーい、」
嬉しそうに駆け寄るフレイに、さっきまでの冷酷さはない。あるのはただ、恋をしている女の所作のみ。
「クロト、シャニ」
「はーい」
「はーい・・・・・・」
「それではグラディス艦長、失礼する」
最初から最後まで静かな顔を崩さず、純白の隊服を纏う彼は去っていった。
背後に部下を従え、多大なる影響だけを与えて。
宇宙に同化し、漆黒の戦艦は消えていく。
「あれが、アドボロス・・・・・・」
呆然としたタリアの呟きだけが、ミネルバのブリッジに響いた。
2006年1月14日