04:penalty and choice
漆黒の戦艦がミネルバのレーダーに引っかかったのは、本当に突然のことだった。
本来ならば、もっと早くに判るはず。今は法律により禁止されているミラージュ・コロイドでも使っているのではないかと思われるほど、その艦は静かに唐突に現れたのである。
誰もが緊張に身を強張らせたそのとき、音声だけがブリッジに響き渡った。
『こちらザフト軍所属戦艦、アドボロス。そちらに搭乗しているシャニ・アンドラスの引渡しを要求する』
聞こえてきた男の声に、半ば眠りに落ちていたシャニは眉を顰めた。それは、彼の持つ唯一の上官の声ではなかったからだ。
CICからマイクを受け取り、タリアは眼前のモニターに映る戦艦を見据え、言葉を返す。
「こちらザフト軍所属戦艦、ミネルバ。艦長のタリア・グラディスです。あなたがアドボロスの艦長?」
『違う。うちの隊長は乗る艦を間違えた馬鹿のために出てくるほど暇じゃねぇ』
砕けた言葉は、よく言えば艦のチームワークの良さを表している。けれどザフトにおいては在り得ない上下関係の気安さに、タリアだけでなくアーサーたちも驚いていた。
イヤホンを外し、シャニは嫌そうに肩を竦める。
「オルガ、うざーい・・・・・・」
『シャニ、てめぇのせいで任務が遅れてんだよ。罰則は覚悟しとけ』
「トイレ掃除・・・・・・?」
『プラス、来月の給料が三割減。それと次回の戦闘は艦内待機だとよ』
「・・・・・・、厳しすぎ・・・」
シャニは項垂れるが、その罰則の内容にシンたちの方が驚いた。
遅刻一回の罰に対しては、あまりに重いような、けれど軽いような。
普通ならば警告で済むだろう。数回重なれば、そこで減俸処分。それを考えれば、シャニに下された罰は重い。けれど。
「・・・・・・トイレ掃除って、何よそれ・・・」
「っていうか、艦内待機が罰になるんだ・・・?」
ルナマリアとシンは、基準が判らないというように首を傾げている。表情には出さないが、レイとて同じだ。
特殊部隊の特殊は、特異という意味なのかもしれない。ミネルバの誰もがそう思ったとき。
『―――シャニ』
響いた声は、玲瓏だった。
『置いていかれるのと、どちらがいい?』
「・・・・・・トイレ掃除、頑張る」
『五分で迎えにいく。出れる準備をしておけ』
「ん」
こくりと頷いたシャニは、容姿よりも声よりも幼く見えた。
音声がぷつりと途絶えた後、しばらくしてモニターに映る漆黒の艦から小型シャトルが射出される。
無機質なシグナルが、ミネルバに着艦許可を命令してきた。
「・・・ってわけで、よろしく・・・?」
小首を傾げるシャニに、ミネルバの面々は脱力せざるを得なかった。
シャトルは着々とミネルバに近づいてきている。
2006年1月12日