03:NEED NOT TO KNOW





ミネルバのブリッジには、妙な沈黙が広がっていた。
シンやルナマリアは眉を顰めながら立ち、レイは無表情ながらにも視線の険しさを隠していない。
CICを操るメイリンはちらちらと興味深そうな様子だし、副艦長であるアーサーは突然の事態に動揺してばかり。
そんな中、タリア・グラディスは深々とした溜息を吐き出した。
彼女の目の前には、黒い隊服を身に纏った男が立っている。
「所属と名前、認識コードを名乗りなさい」
タリアの言葉に、男はゆるりと頭をめぐらした。露わになっている片目は、ひどく眠そうな印象を与える。
声は想像よりも高く、男というよりは少年のようだった。
「・・・・・・シャニ・アンドラス・・・・・・アドボロス所属・・・?」
アドボロス、という名にブリッジにいた誰もが息を呑んだ。
噂の中でのみ囁かれている名。デュランダルの下に構成されている特殊部隊。
まさか、とタリアも驚き、その眼差しを真剣なものに変える。
「認識コードは? IDカードと艦籍番号も」
「・・・・・・知らないし、持ってない・・・」
「知らない?」
「コードは・・・・・・オルガとクロトの間・・・? IDはどっかに落として・・・・・・艦は、今日初めて乗るはずだった・・・」
「・・・・・・アドボロスは、今日が進水式だったの?」
「さぁ・・・・・・?」
シャニ、と名乗った男は、自身の身分を証明するものを何も持っていなかった。
ぼんやりとした様子は、とてもじゃないが特殊部隊に所属する者とは思えない。
壁際で控えていたルナマリアは、小声で隣に囁く。
「ねぇ、本物だと思う?」
「うーん・・・・・・?」
シンとしても首を傾げるしかない。そもそもアドボロスという存在さえ、実在するなんて思わなかったのだ。
タリアは頭が痛いというように、額に手を当てている。
「仕方がないわね・・・・・・。アーサー、本部に照会を。シャニ・アンドラスという人物と、アドボロスの進路を聞いてちょうだい」
「はっ・・・はい! 了解しました!」
「別に・・・・・・そんなことしなくても、そのうちが来てくれると思うけど・・・・・・」
ぽつりと呟き、シャニは黒い隊服のポケットから音楽プレーヤーを取り出す。
もそもそとイヤホンを付けると、後は関係ないとでも言うように、ブリッジの隅まで行き、床に座った。
周囲すらすべて無視をしている彼は、ただそれだけが気がかりというように、やはり小さく漏らす。
「・・・・・・罰則かなぁ・・・・・・やだなぁ・・・・・・」
その囁きを聞いたのは、近くにいたレイだけだった。

一時間後、ミネルバは漆黒の戦艦の来襲を受ける。





2006年1月10日