02:I am looking for the stray child.
時間になっても現れない同僚の一人に、オルガは深々とした溜息を吐き出した。
ブリッジの中央、すべてを見回せる場所―――艦長席と隊長席を等しくかねているそこを振り返る。
そこに座る人物は、オルガたちよりも長い―――それは最高評議会議長と同じ長さだ―――上着の裾を、ゆっくりと足を組むことで払いのけ、無感情に瞼を伏せていた。
黒い髪が、白銀の隊服の肩で揺れる。漆黒の軍服ばかりの中で、その色だけが異様だった。
すべてを跳ね返すような、純白。汚されることのないそれを纏うのは、この隊の長。
「、やっぱり見つからないわよ。少なくともアーモリーワンにはいないみたい」
CICの傍らから画面を覗き込んでいた女―――フレイが、隊長席を見上げて告げる。
彼女はオルガと同じ黒の軍服を着ている。膝丈でタイト気味のスカートからは、僅かに白い足が覗いていた。
その言葉に、後ろで控えていたクロトが呆れたように声をあげる。
「あーあ、シャニのやつ、初出勤から遅刻だ。バァッカでー」
「だけどアーモリーワンにいないって、どういうことだよ? 少なくとも今朝は部屋にいたんだろ?」
「僕が電話したときには、部屋にいたよ。、僕ちゃんと電話して起こしたからね!? 僕の所為じゃないよ!」
「―――あぁ、判っている」
クロトの訴えに、は言葉だけで頷いた。彼が動く度に純白の隊服が僅かに音を立てる。
隊長格らのそれよりも煌く白は、まさに支配者のみに相応しいものだった。
目を閉じている彼は、まるで人形のように美しい顔が尚更際立っている。見惚れるほどの美が、そこにある。
「本日、アドボロスよりも先に出向した艦に連絡を取れ。どこかに紛れてるはずだ」
静かな命令に、CICたちが一斉に手を動かし始めた。
邪魔にならないよう下がり、の隣まで来てフレイは首を傾げる。
「他の艦って・・・・・・いくらシャニでも、乗る艦を間違えるほど馬鹿じゃないでしょ?」
「いや、シャニは馬鹿だろ。あいつ、まだ自分の認識コードも言えないしな」
「アドボロスは前に見てるとはいえ、実際似乗るのは初めてだし? シャニなら間違えても仕方ないかもね」
オルガは肩を竦め、クロトはやはり楽しげに笑っている。
戦艦の要であるブリッジで、交わされる会話は和やかだった。厳かで規律というものを雰囲気で感じさせながらも、どこか親しみのある温かな空間。
CICが、発見の声をあげる。
「シャニ・アンドラス隊員を確認しました。現在地は―――ミネルバです」
「はぁ?」
「ミネルバ?」
「あの艦は確かグレーだろ。アドボロスと間違えたんじゃねーの」
「―――どちらにせよ、放っておくわけにはいくまい」
ゆっくりと、白皙の瞼が持ち上がる。現れた闇色の瞳は、眼前に広がる宇宙よりも深い。
冷ややかに、は命令を下した。
「アドボロス、進路変更。ミネルバへ迷子を迎えにいく」
「「「イエス、サー!」」」
黒でカラーリングされた最新艦が、静かに行く先を変える。
その処女航海は、特殊部隊の名に恥じたものだった。
2006年1月10日