08.ヨーク・ランカストーローズ





たくさんの、たくさんの、それこそ百人でも抱えきれないほどの薔薇の花を、は降り注いでいる。空になればトラックへ走り寄り、また一抱え分の薔薇を抱く。そしてそれを絶え間なく注ぎ続けるのだ。ラウ・ル・クルーゼと刻まれた墓標の上に。
「ちちうえ、ちちうえ、きれいでしょう、まっかなばら、きっとちちうえににあうとおもったんです、いっぱい、いっぱい、ちちうえをかざろうとおもったんです、にあいます、ちちうえ、きれいです、だいすき、だいすき」
蕩けるような微笑を湛えながら薔薇を撒き続けるを、レイは静かにトラックから眺めていた。その手は何本かの薔薇を束にし、カラー紙と透明なセロファンで包み、リボンを美しく結わいて見事な花束を作り出している。一際大きなそれは、自分の義父のために。どうか安らかにと願いながら、彼と共に逝った上官の分も作り出す。
その間もはまたトラックから薔薇を取り出し、今度は違う墓標へと駆けていく。
「にこる、にこる、ひさしぶり、げんき、らすてぃ、みげるも、みんなげんき、ばらをあげるよ、ちちうえのおまけだけど、ばらをあげるよ、ほら、きれい」
三つ目の花束は、作られた歌姫のため。立場は違えど、彼女もまたデュランダルに尽くす者だった。今ならその冥福を静かに祈れる。彼女の地毛と同じ色のリボンを取り出し、レイは丁寧に飾りを作る。
「おるが、くろと、しゃに、おまえたちはどこにいるの、なげたらとどく、なげるよ、ほら、おまえたちのぶん、まっかなばら」
スクリーンの空に向かって放られる薔薇は、すぐに重力制御に従い、自身の上へと降り注ぐ。白いコートに残る花弁は血のように鮮やかで、レイは知らず悲しげに眉を顰めた。彼もまた、それぞれの墓標に花束を捧げる。少し考えてハイネの元にも一輪供えて振り返ると、はまだ薔薇を抱いていた。彼の笑みは美しく、痛々しい。紡がれる声は過度の純真。
「ふれい、これはおまえのぶん、きっとちちうえのつぎに、ばらはおまえににあうよ、かみとおなじ、まっかなばら、ほら、きれい、とてもにあう」
墓地の芝生はすでに、ここ一帯を真っ赤に染め上げていた。その中心にある墓標に近づき、は愛しげに冷たい石へと唇を寄せる。薔薇よりも紅いそれが、あいしていると囁いた。
「ちちうえ」
涙は決して流れない。

「・・・・・・また、来ます」

どうしようもない慟哭が、の中にも、レイの胸にもある。散らされる花弁が鉄の匂いを帯びていたら良いのに。そう願ってしまう思考回路が、まだ癒えない自身の証に感じた。





花言葉は戦争。
2006年7月6日