07.我が心、君のみが知る





というキャバクラ嬢の名は、静かに、けれど確実に広まっていった。それらは上流階級において顕著で、彼らは興味本位で一度店を訪れ、そして短い逢瀬でに魅了されていく。彼ら上客は一般のフロアーではなく、スペシャルビップルームを指名することが多い。彼らの目的であるも必然的にその部屋にいることが多くなり、一般のフロアーには姿を見せる回数は減っていった。故に名は広まれど、その姿を見たことのある者は少ない。金持ちは往々にして、自身の宝を囲いたがる傾向にある。そしてというキャバクラ嬢は、それだけの価値があったのだ。



「これで三ヶ月続けてのナンバーワンだね。おめでとう、
そう言って差し出されたグラスを受け取ると、男は自身のグラスと僅かに接触させ、綺麗な音での偉業を褒め称えた。
「ありがとうございます。これもすべてメドッソさんが私を指名して下さっているおかげです」
「私を魅了したの力さ。手助けしたのが私だけでないことが悔しいがね」
「みなさん、本当に優しくて・・・。私は幸せ者です。ありがとうございます」
目元をうっすらと感激に紅潮させ、男の太ももにそっとの細い手が乗せられる。柔らかく指先を包み込んで、男は桜色の爪に口付けを落とした。
「祝いの品を送らなくてはね。何か欲しいものはあるかい?」
「そんなっ・・・メドッソさんがいらしてくれるだけで十分です」
「それでは私の気が治まらない。何でもいいよ、好きなものを言っておくれ」
男にじっと見つめられ、はうっすらと頬を染めて困ったように見つめ返す。僅かに尖らせられた唇の艶やかさに、男はごくりと喉を鳴らした。花のような、毒のような、紅い色がゆっくりとひらめく。
「―――薔薇を」
うっとりと、まるで愛を囁くかのように優しく、そして妖艶に。
』は、告げた。
「薔薇を、ちょうだい。世界中の薔薇をぜんぶ」

おれのために、ささげて?

舌足らずな口調。俺という一人称。激変した雰囲気。問うべきことはいくつもあったかもしれないけれど、男は言葉を口にすることさえ出来なかった。ただ、ただ、目の前の相手に囚われて仕方がなかった。性別すら関係ない、底のない闇が手招きして呼んでいる。悪魔のような囁き。



翌日、店に入りきらず外まで溢れかえった真紅の薔薇の海で、艶やかに唇を吊り上げるがいた。





綻びる仮面、それすらも可憐。
2006年7月6日