06.手のひらでそっと包み込む





一枚の写真を、イザークは持っている。かつて「クルーゼ隊」と呼ばれたメンバーが、自分を含め全員写っているものだ。ピースをしているラスティに、笑いすらしていないアスラン。にかっと歯を見せているディアッカに、穏やかに微笑しているニコル。赤ではないけれど先輩のミゲルが手を振っており、イザーク自身は睨みつけるようなまなざし。常だった無表情な。そして、笑みをたたえたクルーゼ。
写っている八人の内、半分が命を失った。残った四人も心に大きな傷を負った。生きているのが幸いと言われるかも知れない。けれど生き残ったからこその苦しみもある。がまさに、そうだった。
「イザーク、またお姫様たちからメールが来てるぜ」
膨大なデータに目を通していたイザークは、部屋に入ってきたディアッカの言葉にうんざりするように眉間の皺を増やした。
はどこにいるのか、いい加減教えろってさ」
「奴は俺の管理下にある。教える理由はないと言っておけ」
「いいのかよ? 最高評議会議長と地球連合代表だぜ?」
「権力者だからこそ知らせるつもりはない。政治に私情を挟むなと伝えろ。個人でなら更に教えないともな」
イザークの言うように、ラクスやカガリはの居場所を知らない。最高評議会の中で知っている者の方が少ないだろう。そして彼らはクライン派ではなく、政治家としてのラクスたちを信用している輩ではなかった。そしてそれはイザークも同じだ。議員としても軍人としても個人としても、イザークは比較的ラクスたちに近しいところにいるだろう。だからこそ彼は信用していなかった。戦場での彼女たちを見てきたからこそ、この政治の場で信用することは出来ない。少なくともある程度の結果を残してもらうまでは。
「元気なんだろ?」
尋ねてくるディアッカですら、とレイの居場所を知らない。イザークは個人的に親しい誰にも、彼らの今を教えてなかった。
「あぁ」
「それくらいは伝えてもいいだろ? そろそろ断りの文句も尽きてきててさ」
「じゃあこれも伝えておけ。俺がの居場所を教えないのは、がそう望んでいるからだ」
ディアッカが言葉に詰まった。イザークは淡々と事実を告げる。

は一度でもクルーゼ隊長と敵対した奴には、決して会わないと言っていた」

あまりに深い傷が、彼の中に刻まれている。生きているからこその憎しみは、まだ彼の中に残っている。だから会わせるわけにはいかない。ラクスたちはもとより、のために。
大きく息を吐き出し、イザークは写真を見やった。写る無表情なには、もう会えない。彼の心はクルーゼと共に死んでしまった。残されたのはただ、空っぽの器だけ。
それを守るのが自分の役目だと、イザークは写真の中のクルーゼに誓う。かの人はやはりイザークにとって、尊敬できる上司だった。





最期まで傍で見ていた。彼らの慈しみあう姿を。
2006年6月22日