02.レジェンド





「あれ? 新しい子入ったの?」
常連客の指摘に、黒服の男は接客スマイルを浮かべて頷いた。
「ええ、今日から入った『』です」
ちゃんか。可愛いね、俺の席に呼んでくれる?」
「かしこまりました」
黒服が一礼して下がると、その足でヘルプの席についていたと呼ばれた女の方へ向かう。彼女が立ち上がる際に漆黒の髪がライトにきらめき、美しい艶をはじき出した。踏み出す一歩ですら品があり、店中の男が彼女に視線を奪われる。は客の前まで来ると、にこっと唇を上げて微笑んだ。
です。ご指名ありがとうございます」
その笑顔はとても愛らしく、美女だった彼女を一瞬で美少女へと変化させた。ソファーに座って足を組む仕草からは何とも言えない色気を感じさせられるのに、向けてくる笑顔はまるで無垢な少女のよう。鮮烈なギャップに、客はごくりと唾を飲み込む。
・・・・・・ちゃん」
「はい? あ、えっと、お飲み物いかがですか? いっぱいあるんですよ。何にします?」
明らかに『初めての接客』という様子で、黒真珠のような瞳が戸惑ったように揺れている。客の熱く見つめる視線に気づき、困ったように眉を寄せて、次の瞬間にふわっと微笑む。それはすべての男を魅了するのに十分足る仕草だった。客は思わず叫んでいた。
「ドンペリ! ピンクで!」
「ドンペリピンク入りまーす!」
黒服の繰り返しに、わぁっと店内が盛り上がる。その勢いに目を丸くしたの表情はあどけない。頬を紅潮させて「ありがとうございますっ!」と言われただけで、客は最高級のドンペリ分の価値はあったと思った。



こうしてプラント首都、アプリリウス・ワンの夜の街に、一つの伝説が生まれようとしていた。





三日で1になった。
2006年6月21日