01.とにかく稼げ





レイとに与えられたのは、イザークの自宅からもZAFTの施設からも程近いマンションの一室だった。
3LDKのそこには家具もすべて一式が揃えられている。とにかく一般人として罪を犯すことなく社会に貢献して生きろ。それがイザークが二人に投げつけた言葉だった。
「・・・・・・就職情報誌」
リビングのテーブルの上に置いてあった雑誌を手に取り、レイはぽつりと呟く。ぱらりとめくってみれば、様々な募集要綱が羅列されている。そのあまりの情報量に茫然としていると、は勝手にキッチンへ周り冷蔵庫を開けていた。ペットボトルを取り出して飲みだす彼は、先の大戦の間中に扮していた少女の姿のままである。今は偽ることなく凶悪な本性がさらけ出されているけれども、それは『彼女』の美しさを余計に引き立たせているだけだった。知らず見惚れているレイの隣まで来て、細い『少女の手』で雑誌を奪い取る。
「二年だ」
「・・・・・・は? いえ、はい」
「二年で一億稼ぐ」
さらりとは言った。それはやはり少女の声で、完全にどこから見ても美少女、もしくは美女にしか見えない。ラウ・ル・クルーゼの喪失と二回の戦争を経て、彼はどこかが完全に壊れてしまったらしい。それがどこかレイには分からないけれど、イザークはそんなを見る度に眉をしかめ、僅かに安心したかのように苦笑いを漏らす。
それにしても突飛すぎる言葉に、レイはただ驚くことしか出来ない。
「二年って・・・・・・どうしてですか?」
問いかけると、はパラパラとページをめくる手を休めずに、目線だけでじろりとレイを睨んだ。
「二年も経てば、おまえはテロメアの関係で中年の顔になるだろう。その変化をどう周囲に説明するつもりだ」
「あ・・・・・・」
「基本資金を二年で稼ぐ。その後は在宅ワークでも何でも好きにすればいい」
「で、ですが、二年で一億も稼げるのですか?」
「『稼げる』じゃなく、『稼ぐ』だ」
ばさっと乱暴に雑誌を放り投げられ、開かれていたページにレイは目を丸くする。愛らしい顔では笑った。

「てめぇは父上に似ているおかげで顔だけはいいんだ。せいぜい女どもに貢がせるんだな」

まるで魔女のように、悪女のように目を細めたの示す先には、流麗なフォントでひときわ大きな文字が綴られていた。
『女性に夢を見せませんか? ホスト大募集中!』―――と。





レイバレ、ホストになる。
2006年6月21日