生チョコに、愛を込めて。





St. Valentine's day





アプリリウス・ワンにあるクルーゼ邸。
植林された緑の庭木が色鮮やかな中、フレイは白い石張りのテラスでティータイムを楽しんでいた。
自らが入れた紅茶を、目の前の友人が手土産として持ってきてくれたケーキと共に味わう。
「そういえば、フレイはバレンタインはどうするんですか?」
穏やかに微笑みながらニコルが尋ねると、フレイはぱぁっと笑顔を輝かせた。
誰かに話したかったというその雰囲気にニコルも思わず苦笑する。
「生チョコを作ろうと思ってるの。は甘いものが好きでも嫌いでもないみたいだけど、以前にお義父様が頂いてきた生チョコはいくつか食べてたから、結構好きなんだろうと思って」
「いいですね、生チョコ。でも作るの難しくありませんか?」
「大丈夫。この前試しに作ってみたんだけど、ちゃんと成功したもの。やっぱりお手伝いさんと一緒にご飯作ったりしているから腕前も上がったみたい」
頬をうっすらと染めるフレイは可愛らしいとニコルは思う。
だけどそこに甘い感情が入っているわけではない。彼らはあくまで友達だった。

「それで? ニコルはに何を贈るの?」

あくまで、『・クルーゼ』という同じ好意対象を持つ同士だった。



クルーゼ邸の午後は穏やかに過ぎていく。ほのぼの、のほほん、時にきゃあきゃあ。
「バレンタインにチョコレートを贈るのは女性にのみ許された行為ですから、僕は別のものを贈ろうかと思って。今のところ第一候補はカフスです」
「本当? じゃあこれからますますのスーツ選びが楽しくなるわね! だって何を着せても似合うんだもの、選び甲斐があって楽しくて」
は結構好き嫌いがないみたいですしね。スーツもクルーゼ隊長が買ってきたものを着てるって聞いてますし」
「そうなの。最近は私も一緒に行って選ぶのよ。お義父様と私で、は着せ替え人形」
「あはは、いいなぁ、楽しそうですね」
「羨ましいでしょ? でも譲ってあげない」
楽しそうに笑って、フレイは意地悪く言う。
は私とお義父様のものなんだから」
自信満々の言葉に、ニコルも苦笑した。

「バレンタインの日はお休みにしてほしいってお義父様言ったんだけど、やっぱり無理だって言われちゃった」
「それはそうですよ。あの(に女性が群がるのを楽しんでいる)クルーゼ隊長が、バレンタインだからって休日にするわけないじゃないですか」
むしろバレンタインだからこそ評議会議会所からミネルバ・オーブ・地球連合本部まで引きずり回しそうだ。
ニコルは半ば確信的にそう思ったが、言葉にはしない。
はぁ、と溜息を吐き出して、フレイは拗ねたように頬を膨らませる。
「でも、それじゃが他の女からチョコをもらうっちゃうじゃない。少なくともラクス・クラインは絶対に来るだろうし」
「オーブのアスハ代表は地球におられる身だけど、へのためなら来ちゃいそうですよね」
「それに最近じゃミネルバの何とかっていう姉妹もにちょっかい出してきてるみたいだし! お仕事中はお義父様が一緒だろうから大丈夫だろうと思ってたのに!」
クルーゼ隊長に任せること事態間違っているとニコルは思う。だが思うだけで言葉にはしない。
ニコルはのことを兄のように憧れの対象として慕っているから、その彼が女性に人気を博していることが嬉しかったりするのだ。
もちろん実際にその場に立ち会ってがどうにかしろと言うのなら、たとえ相手がフレイであろうと引いてもらうようにするけれど。
にこにこと笑顔を浮かべながら、意外と友達甲斐のないことを考えているニコルにも気づかず、フレイは苛立つ。

「あぁもう! バレンタインなんて三分で終わればいいのに!」

そうすれば日付が変わったと同時にの部屋を訪れて私が独占できるのに!
到底無理なことを嘆くフレイだが、きっと実現したとしてもその三分に合わせてラクスもカガリも来るだろう。
短い時間だからこそ争いも激しくなって、更に争奪戦は加熱するだろうに。
ニコルはそう考えつつも、友人であるフレイに向かって穏やかに微笑む。

「頑張って下さいね」





2005年2月11日