トリュフで、愛を包んで。
St. Valentine's day
ドーンという爆発音に、キラは端末を見ていた顔を上げた。
そしてすぐに走り出す。執務室を出て階段を降り、絨毯に覆われた廊下を駆け抜ける。
騒音に驚いた他の人々も、それぞれ部屋から顔を出していた。
突き当たりのドアから細い煙が上がっているのを見て、キラは走る足をより一層速める。
こんなオーブの中枢で爆発音だなんて。戦争は終結し、今は平和の道を歩んでいるというのに。
冷や汗が背中を伝うのを感じながら、キラは勢いよくドアを押し開けた。
「カガリ!」
途端に焦げた臭いが鼻につき、思わず手で覆う。
黒い煙が充満している中で、キラの片割れは振り向いた。
いつもは太陽のように輝いている金髪を、今は煤で灰色に染めて。
「・・・っ・・・キラぁ!」
顔を歪め、大粒の涙を溢れさせながら、カガリが抱きついてくる。
それを受け止めて室内を見回したキラの目に、到底この世のものとは思えない物体が見えた。
ボロッと崩れて灰と化した代物は、通常ならばカカオからできている『チョコレート』と呼ばれるもの。
しかし今現在、それは核にも等しい破壊力を持っていた。
「トリュフ!? 何でそんな難しいものを作ろうとしたの!?」
ごしごしと雑巾で床を磨きながらキラは声を荒げた。
突然の爆発音の原因がカガリだと分かったことで、他の人々はそれぞれ通常業務に戻っている。
キラも代表補佐としてまとめておきたい仕事があったのだけれども、カガリの面倒を見ることも補佐の仕事だと言われて、無理やりその場に残らされた。
双子っていうのは片割れが部屋をめちゃくちゃにしたときには掃除しなきゃいけないものなんだなぁ、などとどこか遠くを見ながら床にこびりついたチョコレートの成れの果てを拭き続ける。
「だって・・・っ! だってラクスがフォンダンショコラを作るって言うんだ! フレイだって生チョコを作ると言うし! これで私だけ既製品のチョコなんてあげるわけにはいかないだろう!?」
「だからって、食べられないものをあげたらが可哀想だよ」
「分かってる! でも・・・っ」
何気にキラはさらりと酷いことを言ったが、カガリは気づいているのかいないのか、そのまま綺麗にスルーする。
オーブ再建の中枢を担っている彼らは、さすがに双子ならではのチームワークを持っていた。
「大体カガリは不器用なんだから、トリュフなんて難しいものは止めて、普通に型に流して固めるだけのチョコがいいと思うよ」
「でもそれじゃラクスやフレイに勝てないっ!」
「別にバレンタインは勝負事じゃないって」
「勝負事だ! ライバルとに対して!」
ぐっと雑巾を力いっぱい絞って、カガリは言い放つ。
「絶対に私は負けないっ!」
メラメラと燃えるカガリの決意でチョコレートが溶けそうだ。
キラはそう思いつつ、両肩を落として深い溜息を吐き出す。
どうして自分の周囲にいる女の子は、みんなしてこう強すぎるのだろうか。でもって我が道を突き進んでいるんだろうか、なんて考えながら。
「・・・・・・分かった。僕も手伝うよ」
どうにか食べれるチョコを作ってに渡さない限り、オーブのキッチンは爆発し続けるだろう。
それだけは避けたい。むしろ何回も掃除したくない。
そう考え、キラは戦いに燃えているカガリに協力するのだった。
2005年2月9日