君を想う7つのお題(けもの道編2)
1:『純愛』お断り
正直、スタイルには自信があるのだ。でなければ、あんなに露出の多い衣装なんて着られない。
「レイ、これはどう?」
ひらりと一回転してみせると、義兄であるレイは溜息を吐き出した。
失礼ね、と肩を竦め、ミーアは全身鏡の前に立つ。
白い肌に映える、水色の下着。肩のストラップがラインストーンになっていて可愛いのだけれど、小さな星のちりばめられているデザインは子供っぽいかもしれない。
後ろのホックを直しながら、映る自分自身にミーアは首をかしげる。
「やっぱりさっきの黒の方がいいかしら? ほら、フリルのたくさんついていたやつ」
「・・・・・・・・・」
「それともピンクの花柄? 基本の白?」
「・・・・・・・・・」
「意外に豹柄とかお好きだったりして。ねぇ、レイ、今度様にどんなのが好みか聞いてきて?」
「・・・・・・・・・出来るわけないだろう、そんなこと」
「もう! 使えないんだから」
義兄をこき下ろして、ミーアはまた新たな一着を手に取る。
ゴールドにブラックレースのブラジャー。レースばかりのハイカットレッグのパンティに、網状のガーターにストッキング。
年齢には合わないかもしれないが、脱いだときのギャップを狙うのもいい。
スタイルには自信があるのだ。それこそラクス・クラインや、フレイ・アルスターにも負けないくらい。
意外と胸の大きいカガリ・ユラ・アスハには劣るかもしれないけれど、ウェストやヒップ、足や背中を考慮すれば勝利は当然。
身にまとえば更に色っぽさを増した下着に、ミーアは誇らしげに笑った。
「女の武器は、ちゃんと使わなきゃ損だもの!」
2:闇に乗じて逢いにゆく
ナイトガウンの袖口を握り締めて、フレイはゆっくりと息を吐き出す。
どきどきと高鳴っている心臓の音が廊下に響いて、静かなはずの夜更けがやけにうるさい。
それを沈めるようにもう一度息を吐いて、フレイは自身を見下ろした。
赤いガウンの下、ナイトウェア代わりにしている黄色のシフォンドールの裾を引っ張る。
(ちょっと短すぎる・・・・・・かなぁ。でもこれ、新しく買ったお気に入りだし。自画自賛かもしれないけど、似合うと、思うし)
胸元のリボンをいじって、そっと襟を引くと、下に見えるのはシフォンドールとお揃いの下着。
(全部おそろいって、あからさますぎる? 派手? っていうか寝てたはずなのにブラジャーつけてるのって変!?)
再び鼓動の早くなっていく胸に手を当てて、フレイは必死で思考を巡らす。
(でもつけてないとシフォンドール一枚だし、それは恥ずかしいもの・・・っ! あぁ、でも、だからきっと気にしないと思うけど。こういう気遣いは無駄だって分かってるけど!)
何だか悔しくなってきて、大きく溜息をつく。そうするとだいぶ気持ちが落ち着いた。
ひょっとしたらそれは諦めと言うのかもしれないけれど。
(えっと・・・・・・「怖い夢を見て、眠れなくなっちゃったの。少し一緒にいてもいい?」「怖い夢を見て、眠れなくなっちゃったの。少し一緒にいてもいい?」・・・・・・)
呪文のようにぶつぶつと言葉を繰り返すフレイは、深夜の廊下ということもあって怪しいことこの上ない。
けれど見ている者は誰もいなかったし、いたとしても仮面の下で笑みを深める者だけだろうから心配はなかった。
(・・・・・・よし! 頑張れ、私!)
自分自身に気合を入れて、震えそうになる手でドアをノックする。
すぐに返された返事に、どうやらまだ眠っていなかったことを知って。
フレイは決死の思いでノブを回した。
「あの・・・ね、。こ、怖い夢を見て、眠れなくなっちゃったの。少し、少しだけでいいから・・・・・・一緒にいてもいい・・・?」
3:確認事項は後回し
会うたびに心臓が早くなるのは、きっと最初に失礼な態度を取ってしまった申し訳なさがまだ残っているから。
話すたびに喧嘩口調になってしまうのは、きっとの態度が横柄で無礼なものだから。
見るたびに振り向いて欲しいと思うのは、きっと目を合わせて話すことが常識だと思っているから。
それがすべてだ、と自分に思い込ませている時点で、すでに矛盾していることにルナマリアは気付いていない。
「あ・・・・・・」
大勢の人が行きかうホールで、その姿をすぐに見つけられたのは何故なのか。
目を見開いて浮かんだ感情を理解する前に、顰められた眉が邪魔をする。
どこかの令嬢に話しかけられているらしいの横顔には笑みさえ見て取れて、それが一層ルナマリアを不愉快にした。
まぁ、それはクルーゼからしてみれば営業スマイルだと一目で分かるものだったのだけれど、付き合いの短い彼女にはまだ分からない。
楽しそうに会話を弾ませている様子に、ルナマリアは手にしていたファイルを握り締めた。
軋む音がしたけれど、それすら耳に入らない。
全身の血が下がった気がして、次の瞬間頭の中が真っ赤になって。
羨ましいとか、悔しいとか、ずるいとか、嫌だとか、いろいろな気持ちがルナマリアの中を駆け巡って。
握り締めたファイルが潰れた。中の書類が爪によって引き裂かれる。
立ち尽くしていた足が勝手に歩き始める。それと同時に一つのことに占められていく思考は、クリアになると言うより熱しすぎているためだろう。
人に行きかうホールを大股で横切るルナマリアの目は吊りあがっていて、そんな彼女に誰しもが道を譲った。
感情が行動よりも先にたつ。おそらくそれは彼女にとって一番の真理だろう。
よく言えば素直、悪く言えば意地っ張り。自分の気持ちをしっかり認識できないまま、ルナマリアは彼の腕を掴んだ。
「行くわよ! ・クルーゼ!」
4:さらってあげる、自由をあげる
勝負はいつも一瞬だと、ラクスは理解していた。
まず最初の印象値。悲しいことに向こうから話しかけてくれることは稀なので、こちらから声をかけなければならない。
そのときのテンション。声の高さ、笑顔のつくり、走りよるスピードまでちゃんと計算しなくては。
次は会話の運び。短い時間でどれだけ自分のことをに伝えるか、の情報をどれだけ引き出すか。
気まずい沈黙が訪れないように、が退屈を感じないように。
もちろんその最中も笑顔を忘れてはならない。右アングルから、左アングルから、どこから見られても可愛くいられるように気を配って。
別れを言うときは、出来るだけ次の約束を取り付けられるように。忙しい互いの身としては無理なことかもしれないけれど、可能性に賭けずにはいられない。
寂しいけれど、自分を思い出してもらうときはやっぱり笑顔がいいから、さよならを言うときも綺麗に笑う。
そこまでシミュレートし、騒ぐ胸を押さえて、ラクスはゆっくりと息を吐き出す。
アスランの調べでは、後三分もすればがここを通るはずなのだ。
手鏡で自分の姿をチェックして、こほん、と咳をして声を整える。
これから別のコロニーに向かわなくてはならないため、与えられた時間は7分25秒。
計算でいけば楽しい時を過ごすことが出来る。けれども、おそらくそうはならないだろうことをラクスは知っていた。
「・・・・・・本当に、いつまで経っても慣れませんわ」
それが恋の醍醐味だとは知っているけれども。
時間が来るにつれて大きく高鳴る心臓に苦笑しつつ、ラクスは時計を確認し、顔を上げる。
行きかう人々の中で一人だけカラーのようにはっきりと見える姿を見つけ、立ち上がった。
今日こそちゃんとシミュレート通り、うまく振舞えますように。
そう祈ってラクスは声を上げた。大好きな彼の名を、喜びと共に噛みしめながら。
「―――様!」
5:手練手管はもう飽きた
モニターに映っているのは、少しだけ幼い顔。
今の自分と同じくらいの姿に、メイリンは目を細めた。
画面のを指でなぞり、ふぅ、と小さな溜息を吐く。
「このくらいのときに会ってたら・・・・・・もっと親しくなれたのかなぁ・・・・・・?」
年上の彼氏という響きはとても素敵だけれど、今は年の差以上に立場だったり場所だったりと大きな障害があるから、つい思わずにはいられないのだ。
彼がもし、自分と同じ年だったら―――と。
キーボードに指を走らせ、新たな情報を検索しつつメイリンは呟く。
「もしアカデミーで同級生だったら、一緒にお昼を食べたり出来たのかな。クルーゼ秘書官はいつも食堂で食べてそうだから、お弁当とか作って差し入れして、一緒に食べたりとか」
想像に楽しそうな笑みを浮かべ、新たにヒットした情報を開く。
退役する前、二年前のの戦績。加えて当時のプロフィール。
「一緒に卒業して、一緒にミネルバに配属されて。クルーゼ秘書官が出撃するときの誘導もしてみたいし、休暇は一緒に出かけたいし。あー・・・・・・もう、ホント、同じ年なら良かったのに」
唇を尖らせ、メイリンはむぅっと頬を膨らませた。
その間も指はキーを叩き、に関するデータをさらっている。
おそらくミネルバの中でについて一番詳しいのは自分だろうとメイリンは自負している。彼はすでに退役してしまったから二年前までの情報だけれど、そこから分かることも多い。
それでもさすがに今のデータを知らないのは不利だと思うから。
ポケットから取り出したカードで次の休暇を確認し、メイリンは頬を染めて笑う。
「今の情報は、本人に聞けばいいんだもん!」
6:声
オーブ代表になってから、忙しい日々が続いている。それこそ目が回って倒れてしまいそうなくらいの日々が。
政治は何が正しいか分からないし、書類は難しいし、演説は覚えなくてはいけないし、嫌いなドレスを着なくちゃいけないこともあるし!
平和になったのは嬉しいけれど、この自分の状況を思うと素直には受け入れられなくなってしまう。
そんなカガリにとって、毎日夜十時に繋げる通信は、たった一つのオアシスだった。
一日を頑張った自分にあげる、嬉しすぎるプレゼント。
「今日は・・・・・・どれにしよう」
ジャケットを脱ぎ、クローゼットを漁る。性格から可愛らしい服は持っていないのだけれど、せめて似合うと思ってほしいから。
どれにしようか迷った末に、先日アイシャと買い物に行ったときに彼女が選んでくれた淡いグリーンのワンピースを選んだ。
「・・・・・・そういえば、あいつが私に選んでくれたドレスもグリーンだったな」
それからこの色は自分にとって特別になったのだ。
思い出に頬を染め、カガリはワンピースに腕を通す。そして化粧台に向かい、ブラシで髪を梳いて化粧水をコットンにしみ込ませる。
乳液とファンデーションと、ほんのりと色づく程度のルージュ。
可愛く見えるように、でも不自然に思われないように。どきどきしながら全身をチェックし、カガリは「よし」と呟く。
そしていよいよ通信機の前に座った。
相手のコードはもう覚えている。忘れられないし、きっともう忘れない。
何度も繰り返して指が記憶しているのに、それでも震えてしまう自分にカガリは気付かない。
逸る胸だけに精一杯で、自然と赤くなってしまう頬を冷ますのに必死で。
繋がった回線の向こう、モニターに映ったに息を呑む。
こうして彼に会えるからこそ、毎日頑張ろうと思うのだ。彼の声を聞くために。
真っ赤な顔で、カガリは今日も話しかける。
「・・・・・・っ! ひ、久しぶり、だなっ!」
7:酔わせてみたい
常々ステラは夢見ていた。いつかとデートをしてみたい、と。
この間アズラエル理事が見せてくれたドラマのように、天気の良い日に公園で待ち合わせして、「ごめんね、待った?」「いや、全然」という会話をしてみたい。
映画を見るのもいいし、テーマパークに行くのもよい。時々スティングが自分とアウルを海に連れて行ってくれるようにドライブなんかも楽しそうだ。
一緒にご飯を食べて、いろんな話をして。腕を組みたいと言ったら怒られるだろうか?
でも、そんなことをしなくても、きっと一緒にいるだけで楽しいだろうとステラは思う。
といられれば、間違いなく幸せに違いない。
彼が望むのなら、自分の専用機である黄色のウィンダムで宇宙を散歩するのもいい。
地球とプラントを眺めて、たくさんたくさん話をして。
が望むなら、ウィンドミルだってエッグだってスワイプスだって決めてみせる。ブレイクダンスは全部ウィンダムで決められるよう、頑張ってみせる。
プロレスが好きなら、アウルに頼んで相手してもらうのもいい。ジャーマンプレスだってシャイニングウィザードだって延髄斬りだって食らわせてみせる。
黄色と水色のウィンダムが技を掛け合う姿は、きっと面白いだろう。それでが笑ってくれたらいい。
・・・・・・本当は、とウィンダムでダンスをしてみたいけれど。
その後は一緒に夕飯を食べて、一緒にテレビを見て、一緒にお風呂に入って、一緒のベッドで寝る。
考えただけで楽しくなって、ステラは笑った。
朝起きたときに、隣にがいてくれたら、絶対に幸せ。モーニングコーヒーを一緒に飲めるのだ。
その後は朝ごはんを食べて、迎えに来てくれるナタルの車で仕事に行く。
素敵すぎるデートのプランに、ステラはくすくすと肩を揺らした。
夢見る瞳を細めて、思い返すの姿にどきどきしながら、どんどんとデートしてみたい気持ちが大きくなってきて。
こくん、とステラは首を縦に振った。
「・・・理事に、お願いしよう・・・・・・」