イザークは『レイがクルーゼに似ているから、はレイを嫌う』と判断したらしいが、本当は少しだけ違う。
実際は更にもう一段階、理由付けがされているのだ。
Goddess, please turn here!
送られてきた写真の中で、アズラエルとステラに挟まれるようにしてが映っている。
かつて自分も着ていた白服がによく似合っていて、満足そうにクルーゼは笑みを浮かべた。
次をめくれば先日手を貸した姉妹が、その次は黒髪に赤い目の少年がと共に映っていて、その微笑ましさに目を細める。
けれどその次の写真を見て、クルーゼは苦笑した。
金髪碧眼の少年の横に立っているは、その前の写真に収められている無表情とは違い、はっきりと嫌悪を示していたのだ。
くすくすと思わず笑い声が零れる。
その写真をの方へと滑らせ、クルーゼは問いかけた。
「そんなにレイ・ザ・バレルと私は似ているかね?」
「・・・・・・似てるけど、似てません」
寄越された写真には眉を顰める。
「俺にとってその顔は、父上唯一人のものですから」
「ならばレイと仲良くしてやりなさい。あれはずっとおまえに憧れていたらしいから、素気無くされて悲しんでいるぞ」
「笑いながら言われても説得力がありません」
じっとねめつけても返されるのは温かな笑みだけ。
それがとても柔らかいものだったから、は視線を逸らす。
クッションからソファー、テーブルから絨毯へと眼を彷徨わせ、そしてもう一度写真に戻る。
そこには黒髪に黒い瞳をした自分と、金髪に青い瞳をしたレイが並んでいる。
「・・・・・・・・・だって、ずるいじゃないですか」
「父上の息子は俺なのに・・・・・・赤の他人のこいつの方が父上に似てるなんて」
そんなの、嫌です。
ぽつりと落ちた声はとても小さなもので、悔しさを隠さないそれは完全に子供の言い分だった。
唇を尖らせてそっぽ向いている横顔は18歳という年齢よりも幼く見え、クルーゼは思わず笑い出しそうになり、それを堪える。
手を伸ばして黒い髪を撫でてやり、伺うように自分を見てくるに、優しく微笑して。
「たとえ誰が私と似ていようとも、私の息子はおまえ一人だ」
「・・・・・・・・・」
「私の言葉が信じられないか?」
「何より信じていますけれど、これは俺の心情的な問題ですから。いっそのこと俺が整形すれば話は早いかもしれません」
「それは困るな。の容姿を私はとても気に入っている。それこそレイ・ザ・バレルなどとは比べ物にならないほどに」
「・・・・・・・・・父上はずるいです。そんな風に言われたら俺が何も言えないことを知っているくせに」
膝の上で手持ち無沙汰に指を動かし、溜息を吐き出す。
漆黒の目はどこを見るでもなく視点を定め、形の良い眉を顰めて眉間に皴を刻む。
おそらく気持ちの折り合いをつけているのだろう息子の様子を眺め、クルーゼは口を開く。
「それでいくなら、おまえの髪の色はデュランダル議長と良く似ていると思うが?」
「俺の父親は、あなただけです」
「そう、の父は私だけだ」
気分を害したに、クルーゼはただ笑って。
「それと同じように、レイ・ザ・バレルがいくら私に似ていようと、私の息子はおまえだけだ」
「自信を持ちなさい。・・・・・・愛しているよ」
俯いてしまったの表情は見えないが、黒髪からのぞく耳は真っ赤に染まっている。
声を漏らしたら不貞腐れてしまうだろうから、クルーゼは唇を緩めるだけに留めた。
よしよしと頭を撫でてやれば、本当にかすかだけれども頷きが返されて。
とりあえずレイ・ザ・バレルの問題は解決したのである。
数日後、議会所にて。
「クルーゼ秘書官・・・・・・お久しぶりです・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ」
長めの沈黙と僅かに顰めかけられた眉に疑問を感じないでもないが。
無視されなかったことに喜ぶレイがいるので、問題はとりあえず解決したのだった。
2005年4月13日