雑踏を切り裂くようにして轟いたのは、ランチャーミサイルの発射される音だった。
人々の悲鳴と、ガラスの割れる音、何発もの銃撃音がそれに続く。
両手に持っていた紙袋を片手にまとめ、は逃げ惑う人々の波を逆流するように走り出した。
腰に挿していた銃を取り出す。セーフティーロックを外し、すぐ撃てる状態にする。
荷物が邪魔でそこら辺に捨てようかと考えたとき、現場らしいレストランが見えてきた。
割れたガラスと転がっているテーブル。
「青き清浄なる世界の為に!」
とりあえずそう叫んでいる男に焦点を定め、は引き鉄を引いた。
The moon says "Don't illuminate."
ブルーコスモスだと判断する材料は、聞こえてくる言葉だけで十分だった。
おそらくレストラン内にコーディネーターがいたのだろう。それもおそらく要人が。
元々『砂漠の虎』の本拠地であるこの街は、コーディネーターで溢れている。
その中で乱を起こすのならば、狙うのは間違いなくトップ。
「馬鹿が・・・・・・」
おそらくレストラン内にいるのだろうバルトフェルドに向かっては毒づく。
その間にも右手の銃はブルーコスモスを絶えず撃ち続け、道路に死体の数を増やしていった。
私服だがおそらく軍人なのだろう。何人かの男たちも同じようにブルーコスモスを排除していく。
建物の影に隠れている相手を撃ち抜き、駆け寄ってとどめを刺す。
あっという間に血の海と化した道路に立っている敵がいないのを確認してから、はレストランの割れたガラスに向けて腕を上げトリガーを引いた。
室内で人影が崩れ落ちるのを眺め、左手の紙袋を持ち直して歩き出す。
壊れた扉を蹴り倒して中に踏み込むと、床はテーブルと椅子に死体、そしてケバブのソースで溢れていた。
その一角、一際銃痕の多いテーブルに向かって声を張り上げる。
「紙袋に血がついたんですけれど、あなたからアイシャさんに謝ってくれますよね?」
場に相応しい冷静な声で、けれど不釣合いな内容に、テーブルの影から姿を現したバルトフェルドが笑う。
「うーん・・・・・・アイシャ、怒りそうだなぁ」
「怒られて下さい。俺の代わりに」
「仕方ない。素直に謝るとしよう」
アロハシャツについた埃を払い落としている傍らで、もう一人の影が動く。
茶色の髪が視界に映り、紫の瞳がを捉えて大きく見開かれる。
息を呑む音がその場に響いて。
「君は―――・・・・・・!」
「あーっ! 女物の下着を買った変態野郎!」
チリソースとヨーグルトソースに塗れたカガリの叫びに、キラは「え?」と振り返る。
バルトフェルドは思い切り噴き出し、声に出して笑い始めた。
指を指されたは整った顔を大仰に歪め、より一層女嫌いになる自分を感じる。
地球に降下してから散々だ、と考えながら。
嫌がるカガリとキラを半ば拉致するような形で、バルトフェルドは拠点にしているホテルへと連れ帰った。
アイシャに頼まれた買い物をすべて済ませていたもそのジープに同乗する。
運転席にダコスタ、助手席にバルトフェルド。後部座席は右から順にカガリ・キラ・。
キラは何か言いたげにの方をチラチラと見ていたが、自分がアークエンジェルの関係者だとバレるのを恐れてか、話しかけては来ない。
その分余計に声を張り上げたのは、ケバブのソースに塗れているカガリである。
の手にしている紙袋を指差しては劈くような怒声を浴びせた。
「おまえっ! その化粧品、もしかして『エリザリオ』のか!?」
「・・・・・・」
「まさか店員の言ってた『最後の一つを買った客』っておまえのことじゃないだろうな!?」
「・・・・・・」
「何とか言えよっ!」
「・・・・・・なんとか」
カガリが一人で熱く喚き散らしては、が無視し、馬鹿にしたように言葉を返す。
助手席のバルトフェルドは笑いっぱなしで、キラもついつい噴き出しかけてカガリから鋭い睨みを頂戴する。
は先ほどから眉間に皺を刻んだままで、右からの甲高い声を目を閉じながらやり過ごしていた。
不機嫌そのものといった彼の様子にも怯まずにカガリは続ける。
「大体、何で男のおまえが女性用の下着なんて買ってるんだよ!」
「暫時の上官に頼まれたからだ」
「おまけにあんな失礼なことまで言いやがって・・・・・・っ!」
「事実だろ」
「なになに? 何て言ったんだい?」
バルトフェルドが楽しそうに口を挟んでくるのに、は片目を開けて。
「大したことではありません。ただコイツの胸が―――」
「言うな馬鹿っ!」
間にキラを挟んで繰り出される一撃を、は首を捻って避ける。
二発三発と繰り出されるパンチは怒りの所為か単純で読みやすく、避けることは容易い。
顔を真っ赤に染めているカガリの様子から察しがついたのか、バルトフェルドは茶目っ気たっぷりにウィンクする。
「確かにもうちょっと成長してくれないと抱き心地は悪そうだねぇ」
「どうでもいいですよ、そんなこと」
「どう―――っ!?」
失礼な言葉の羅列にカガリは顔を真っ赤にし、言葉を失った。
パクパクと口は動くが声にならず、はようやく静かになったジープで再び目を閉じる。
キラは何が何だか判らない様子で、三人を見回しては首を傾げていた。
「ほら、着いたよ」
ダコスタが豪勢なホテルの正面にジープを停める。
バルトフェルドの楽しそうな様子に、面倒なことになりそうだとは心中で溜息を吐き出した。
2004年12月27日