救命ポッドで放り出され、キラに拾われるまで、彼らが何をしていたのかと言うと。





a rendezvous in the universe





いつまでも止むことのない歌声に、はいい加減うんざりとしていた。
シルバーウィンドから射出された早三時間。耳もそろそろ限界である。
「――――――クライン嬢」
「・・・・・・はい?」
「うるさいので歌うのは止めて下さい」
ギリギリで二人乗れるかというサイズの救命ポッドでは、ラクスの声は反響を繰り返して何度もの耳に届く。
あれだけの騒ぎがあったのだから仕方ないと最初は思っていたが、3時間も続けばうんざりだ。
の言葉にラクスは自らの口を押さえ、柳眉を寄せた。
「申し訳ありません・・・・・・様」
鎮魂歌は止み、ポッドには静寂が訪れる。
射出の際にどこか故障したのか、操縦制御の出来ないポッドは、ふよふよと宇宙を漂っている。



静寂が訪れたため、ラクスは今更ながらに自分がどんな状態にあるのかを思い出した。
狭いポッドにシートは一つしかなく、今はそこにが座っている。
そして彼の膝の上に自分は乗せられているのだ。
服越しとはいえ触れ合っている太腿や、支えのために掴んでいた袖の感覚が、気づいた瞬間にリアルさを訴えてくる。
どうしよう、と惑うものの、狭すぎるポッド内では動くことさえままならない。
羞恥のため赤く染まる頬を知られたくなくて、ラクスは俯いた。
シートの背もたれに身体を預けていたは、彼女のそんな変化に何をするまでもなく告げる。
「他艦との接触は何時になるか判りません。少し休んでおいた方がいいですよ」
「え・・・・・・?」
「お疲れでしょう?」
思わず上げた顔が、の黒い瞳とぶつかる。
今までで最も近いそれにラクスは息を呑み、次いで現れる残像に唇を噛んだ。
コーディネーターというだけで向けられた憎悪。
全身を嘗め尽くすかのようないやらしい視線。
足の裏だけで感じた誰かの事切れた身体。
最後に送り出してくれた男はどうなったのか。
血と恐怖、悲しみに心が溢れる。指先が震えて、目頭が熱くなって瞼をきつく瞑った。
手が緩やかに頭に触れ、そっと引き寄せる。
頬に感じる身体は温かく、心臓の音が聞こえた。

の、生きている音が。

「次に目が覚めたときは、少しはマシな場所になってますよ」
そうが言葉を綴るたびに、肺の動きを頬で感じる。
温かな体温と苦しい心、そして熱くなる身体を堪えるように、ラクスは目を閉じた。
ここ以上に良いところなんてない、と思いながら、赤い隊服を握り締める。
戦争をしているのだと、ラクスは初めて知った。
身を持ってして、ようやく。
そして思う。



にだけは、死んでほしくない――――――と。





2004年11月3日