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一度見た彼の姿
青いフィールドを自由に駆け回るその姿に
身震いしたのを覚えている。
柔らかすぎるボールタッチに
精密機械のように正確なシュート
想像もつかないパスは味方の癖を十分に知っていて
底の知れない畏怖を感じた。
天衣無縫な強さを感じた。
そして、見る者を惹きつけてやまない美しい美貌
彼がジュニアサッカー界から姿を消したのは、それから三ヵ月後のことだった。
「外国人プレイヤー? フットサル場に?」
「相当ウマイね、アイツ」
「ほな俺らも勝負申し込まんとなぁ」
「あのグラサン、日本人だろ?他は四人とも外人なのに」
「どうだっていいよ、そんなこと。―――――行くよ」
「負けた?翼が?珍しいじゃない」
「ホントにね。しかも身体能力的な問題じゃない。もっと基本的なところで負けたんだ」
スピード
テクニック
プレッシャーに抗う強さ
「それ以上に凄かったんだ。・・・・・・特にあの、グラサンの奴」
「サングラス?」
「そう。味方プレイヤーの望み通りの位置に絶妙なパスを出す。それも絶対に敵には取られないような位置に」
「・・・・・・・・・」
「いざ勝負するとものすごくやりにくかった。全然、一度も止められなかった」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「完敗・・・だったよ」
敵も味方も騙しきるようなキラーパス
一瞬にして上がるスピード
気がつけば目の前にいたはずの彼はいなかった
「・・・・・・・・・・・・その人の名前は?」
「さぁ、聞かなかったけど。でもチームメイトの奴らは『トキヤ』って呼んでた―――」
ガシャンッ
「玲?」
「・・・・・・・・・・・・ま、さか・・・・・・」
「まさか、彼が・・・・・・・・・」
「彼が続けていてくれたなんて・・・・・・・・・!」
サッカーに愛された
サッカーをするために生まれてきた
それほどまでに
煌めいていた子供
瀬田 時也
「はじめまして、瀬田君。私、東京都中学生サッカー選抜のスタッフをしている西園寺玲です」
「・・・・・・はじめまして」
「貴方のことを、ずっと探していた――――・・・」
中学二年生になった姿
万人の目を奪う美貌はサングラスに隠されて
穏やかな声音に涙が零れそうになった
「俺が、東京選抜に?」
「そう。貴方に、・・・・・・貴方のプレーをもう一度見せてほしいの」
「そうですか・・・・・・」
「でも、すみません。」
俺はもう、サッカー選手じゃないんです
「・・・・・・っそんな・・・・・・・・・!」
「最後に試合をしてから三年以上が経ってます。今更フィールドに戻ったところで何も出来ませんよ」
「・・・・・・っ!!」
一人、青髪の青年が口を開く。
「俺も、時也はサッカーをやるべきだと思う」
「・・・・・・葵?」
「サッカーをしている時也は輝いてるから。ブランクなんか取り戻せばいいんだよ」
「西園寺さんのように、時也のサッカーに感動する人はもっとたくさんいると思う」
「その人達のためにも、他のサッカーをしている選手達のためにも」
「俺のためにも、時也の両親のためにも」
「何より時也自身のために」
「時也はサッカーをやるべきだ」
決定付けられた未来はすべて神の意思によるもの
苦笑したのは珍しく彼が喋ったからか
それとも自分の未来を想ったからか
少年は首をコクリと縦に振った。
「一線から遠のいていた俺に何が出来るかは分かりませんが」
「貴女の俺のサッカーへの想いは本当に嬉しかったから」
「貴女の望むとおり、再びフィールドへと戻りましょう」
一人の選手が戦場へと舞い戻った
限りない可能性と闘志を秘めて
今一度、降臨せし
サッカーの神
precious symmetry
それは彼と過ごした掛け替えのない時間
僕らはずっと忘れない
2002年8月21日