もう一年遅く生まれたかったなぁ。
須釜寿樹は往々にしてそう考えていたりするのですよ。
友情は永久不変
帰りのHRが終わり、須釜は教科書を数冊適当に鞄に詰め込んだ。
宿題などは授業中に済ませてあるが、なんとなく鞄が軽いと気になってしまうからである。
やっぱりいつもスポーツバッグを担いでいるからですかね〜なんて考えて須釜は苦笑して。
近づいてくる女生徒の気配にいつものように穏やかな笑みを浮かべた。
「ねぇねぇ須釜君。今日ってサッカーないんでしょー? だったら私たちと一緒にカラオケ行かない?」
「カラオケですか〜。そういえばしばらく行ってないですねぇ」
「じゃあ決まり! いこいこっ!」
キャアキャアと歓声を上げる女生徒数名を見ながら須釜はのんびりと考える。
そういえば練習場の近くにあるカラオケ店の割引券があるから、今度君と行かなくちゃいけませんね〜、なんて。
グロスを綺麗に塗った女の子たちを両脇にはべらせながらも、そんなことを考えているのだ。
君は彼女さんとカラオケとか行ったことがあるんですかね〜。
あの上手い歌を彼女さんに聞かせるのはちょっと勿体無いですよね〜。
・・・・・・・・・などと、女の子たちが聞いたら怒りそうなことを考えながら須釜は彼女たちの話に相槌を打つのであった。
話は変わるようで変わらないが、須釜の視力は左右ともに1.0である。
すごく良いとは言えないが、それでも普段生活する分には何不自由なく暮らせる程度の視力だ。
しかし時としてそれは5.0に数字を変える。
今がまさにその時だった。
「――――――――――君!」
200メートル近く先にいる少年の名を叫んだ須釜寿樹はまるでチーターのようだった、と後に女生徒たちは語る。
ものすごいスピードでこちらへと走ってくる須釜を見ながら、まるでチーターみたいだ、とは考える。
背が高くてしなやかな体躯で、あぁなんとなくピッタリだ、なんて思っているうちにチーターは目標の元へと到着していて。
ニコニコと野獣にあるまじき満面の笑顔である。
「どうしたんですか〜? 君が僕の学校まで来るのって随分久しぶりじゃないですか?」
「あー、うん。今日うち午前授業だったから、スガのこの前話してたフットサル場に連れてってもらおうかと思ってさ」
自分よりも20センチ近く身長の高い須釜を見上げては続ける。
「携帯にメールしたんだけど返ってこないし、電話しても通じないし、家の方にかけても誰も出ないから何かあったのかと思った」
「あ、携帯は落として壊しちゃったから今修理に出してるんですよ〜」
「そっか、ならいいや」
そう言って笑うに須釜も嬉しそうに目を細めた。
決して近くに住んでいるとは言えないが、自分のことを心配してここまで来てくれたのが嬉しかったのである。
それはもう、常の100倍増しくらいの笑顔で微笑んでしまう程に。
そしてその笑顔のまま彼は振り向いた。
ようやく追いついてきた女生徒たちに、ニコニコニコニコニコニコニコニコニコと微笑んで。
「僕、やっぱり今日は用事がありますから失礼しますね〜」
問答無用の笑顔に何を言うことが出来たであろうか。
須釜の新たな一面性を見せ付けられて、その場にいた女生徒だけでなく周囲の生徒たちまで固まった。
やはり須釜寿樹は須釜寿樹なのである。
「えーっと・・・・・・・何か、俺から来といてこんなことを言うのも何なんだけどさ・・・・・・」
済まなそうに後ろを振り返りながら歩くに須釜はニコニコ顔で笑う。
「彼女たちですか〜? いいんですよ、カラオケ行こうって誘われただけですから」
「カラオケ?」
「そうだ。君、今からカラオケ行きません? いつもの店の割引券があるんですよね〜」
「あ、それ俺も持ってるかも」
フットサルに行く準備をしてきたからなのか、いつもと同じようなスポーツバッグから財布を取り出してが見せたのは須釜と同じ割引券で。
そういえば前に行ったときに半分こしたんだっけ、なんで須釜は思い出す。
「ならフットサルは今度でいいや。行こう、スガ」
「君、今日は僕の家に泊まっていきません? 親が法事でいないんですよ」
寂しいんです〜、なんて言い出す須釜には軽く目を見張って。
けれどその背中を叩いて楽しそうに笑う。
「『親友を見捨てるほど薄情じゃない』って言ったろ?」
・・・・・・・・・その顔が、須釜は好きだと思う。
大切だと、思う。
だから小島有希なんかに渡したくないんですよね〜、なんて思ったりもするのである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・さすが、須釜寿樹。
二人してのんびりと通いなれた練習場の方へと足を向けて。
「君〜もう彼女さんとはカラオケに行きましたか?」
「小島と? いや、行ってないけど」
「・・・・・・・・・そうですか、そうですか」
「スガ?」
「いえいえいえいえ。今日は何を歌いますか〜? たまには演歌も歌ってくださいよ」
「スガが歌うならデュエットしてもいいけど。一人で演歌歌うとなー」
「ハマって出てこられなくなりますからね〜」
「スガがサブちゃん歌ったら俺は氷川を振りつきで歌ってやるよ?」
笑いながら電車に乗って、そのまま今日はカラオケへと直行。
その後はスーパーで買い物をして、家に帰ってご飯を作って、軽くランニングをして、お風呂に入って。
明日になれば朝一で「おはよう」って言って。
そこまで考えて須釜はニッコリと笑った。
まだまだまだまだまだまだまだまだまだ譲る気はないですからね、なんて思いながら。
須釜にとっての「まだまだ」が永遠であるということに気づくのは果たして誰なのか。
とりあえず好敵手は間違いなく気づくだろう。
そして当の本人は当たり前のように、「スガはずっと俺の親友だろ」なんて言うのだろう。
それを聞いて自分は最高に幸せな気分になるのだろうな、と考えて須釜は嬉しそうに笑うのだった。
2003年5月31日