「私は絶対に認めませんわ! あなたが有希の彼氏だなんてっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうしようか。
目の前で肩を怒らせてそう言い切った上条を見ながら、俺は心底困っていた。
恋愛は切磋琢磨
スガによる『恋するための恋愛講座』ステップ4は『小島の友達に彼氏と認めてもらおう』だった。
スガ曰く、「恋愛は二人でするものじゃない」らしい。
お互いの家族はもちろんのこと、友達にも祝福されて、そして初めて心地よい恋愛が出来るんだとか。
たしかに言われてみればそうだよな。特に今の俺たちはまだ中学生で、勉強とか他にも色々とやることがあるわけだし。
納得してじゃあ頑張ろうと思った矢先・・・・・・・・・・・。
小島の友人・上条麻衣子に牽制攻撃をくらってしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうしようか。
今日はクラブの練習もなくて、ここ最近常連になりつつある図書室で俺はサッカー部が終わるのを待っていた。
視線の先では小島がパス練をしていて、そのペアの相手には上条がいて。
あー・・・・・・・マジでどうしようかな。
ちょっとこれは前途多難っぽいぞ、スガ。
『あなた、有希がどんなに人気があるのか知ってますの!? 告白なんて一ヶ月に4人はくだらないんですのよ!』
一ヶ月に4人ってことは、一週間あたりにつき約一人ってとこか。さすが小島。
『中には勉強の出来る人やスポーツの出来る人もいて。でも有希は全員振ってるんですのよ!? 君、あなたがいるから!』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そのコメントには、どうやって答えるべきか。
『あなたが有希と釣り合うぐらいにカッコよくて勉強もスポーツも出来れば私だって何も言いませんわ!でもっ!』
あー、うん。たしかに勉強はずば抜けて出来るってわけでもないしな。顔については俺自身どうしようも出来ないし。
『それに君! あなた有希の告白をまだ保留してるそうじゃありませんの! 一体どういうつもりですの!?』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それについては、答えようもありません。
『男ならもっとハッキリするべきですわ!』
いや、男尊女卑? をそこで持ち出されても。でも、まぁ、ハッキリするべきなのは確かだし。
『とにかく! 私は絶対に認めませんわ! あなたが有希の彼氏だなんてっ!』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうしよう。
つまり俺は上条に認められてはいないわけで。ということはスガのステップ4をクリアーすることは出来ないわけで。
恋するためには『恋するための恋愛講座』を実行に移さなくてはいけないわけで。
そのステップ4が今回の『小島の友達に彼氏と認めてもらおう』なわけで。
小島の友達に認めてもらうには上条に認めてもらうしかなくて。上条に認めてもらうにはさっきの条件をクリアーするしかないわけで。
えっと・・・・・・・何だっけ。たしか勉強が出来て、スポーツが出来て、カッコイイ?
でもって小島への気持ちがハッキリしてる・・・・・・・・・この場合は小島のことが好きってことだよな。
この条件をクリアー・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・何だか、選抜のセレクションに残る方が簡単に思えてきたんだけど。
だって顔はもうどうしようもないだろ? 整形するにも金がないし。
あーこんなときに真田達みたいな顔だったらなぁ。そうすれば上条も認めてくれたんだろうに。
スガもときどき俺のこと「カッコイイですよ〜」とか言ってくれるけど、それはまぁ冗談だろうし。
まぁ顔は仕方ない。諦めてもらおう。
次は・・・・・・・・・勉強、か。今のところ成績は学年でも中の中くらいだっけ。悪くもなく、良くもないみたいな感じだったはず。
サッカー優先でろくに勉強なんてしてないしな。・・・・・・・・・次のテストは、もうちょっと真面目にやるか。
スポーツは自分で言うのも何だけど、かなり出来ると思う。サッカーだけじゃなくて、バスケでも、陸上でも。
走るのは好きだし、それなりに速いし。スタミナにもそこそこ自信はある。でなきゃ90分もフルでゲームに出場できやしない。
だからスポーツはオッケー。・・・・・・・・・・学校では、あんまり見せてないけど。
問題は・・・・・・・・・これ、だよな。『小島への気持ちがハッキリしてる』。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ハッキリしてないです。ごめんなさい。
何だ・・・・・・俺、上条の条件クリアーできないじゃん。
行き詰ってしまいました。スガ様、助けてください。
―――――――――――と祈ったところで横浜にいるスガに祈りが届くわけもなく。
ましてやスガは今日デートだったはずだし。
今のお相手は誰だっけ? 同じ学校の後輩だっけ? それともこの前逆ナンしてきた女子高生?
アイツのテリトリーは広すぎて俺にはついていけん。よって放っておこう。
何かあったときは多分判るだろうし。
水野の号令で練習を切り上げたサッカー部を見ながら、俺も席を立った。
今日は新撰組の小説を借りるとするか。
学ランに、今日はクラブがないから小さな鞄。小さなと言っても比較がボストンバッグだからサイズ的には普通のなんだろうけど。
なんとなく肩が軽い。
それなのに足取りが重いのは何でだ・・・・・・。いや、原因は判ってるけど。
サッカー部ってことは上条がいるわけで、上条がいるってことは俺はきっと蹴散らされるわけで。
そんな上条を見てると小島に中途半端な態度をとっている俺が情けなくて、でもって小島に申し訳なくて。
はー・・・・・・・・・足が重い・・・・・・。
しかし行きづらいけど行きたくないわけじゃないから、のんびりと足をグラウンドへと向ける。
だけどその瞬間を見た途端、マジで走った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・平気?」
とっさに俺の出来たことといえば、ボールが向かってくる地点にいた彼女の腕を引き寄せることだけで。
反動で逆に俺が背中でボールを受けたけど、まぁそれはどうにか平気っぽい。
野球ボールとかじゃなくてサッカーボールで良かった、マジで。
「ちょ、!? アンタこそ平気なの!?」
慌てたように部室へと向かっていた小島が駆けてくる。
「俺は平気。上条は?」
「麻衣子、アンタ平気!?」
小島が俺の前にいる上条に話しかけるから、俺は握っていた彼女の腕を離した。
結構強く握っちゃったから、痕がついたかもしれない。
ヤバ、女の子なのに。
「悪い上条、平気か?」
尋ねればグラウンドに座り込んだ上条が力なく首を縦に振って。
良かった、これでケガとかされてたら庇った意味もないし。
あーでも学ランにボールの跡ついたかも。
脱いで確認してみたら、背中に真っ白な丸がついていた。見慣れまくったサッカーボールの跡。
こりゃクリーニングか?
「ちょっと高井! 風祭! 練習ならもっと離れたとこでやりなさいよねっ! 危ないでしょ!」
「ご、ごめん小島さん! 上条さんも君も平気!?」
風祭が小走りで近づいてくる。でもって高井は小島に殴られてる。
「俺は平気。上条が・・・・・・・・・ちょっと、怖かっただろうけど」
「ごめんね、上条さん」
風祭がしゃがみこんで上条に頭を下げる。
上条はというとまだぼんやりとしたままで。やっぱスピードボールがいきなり顔に飛んできたら誰だってビビるだろうし、ましてや女の子なら尚更。
「・・・・・・・・・、君」
「・・・何?」
ぼんやり上条が座ったまま俺を見上げてきたので、俺も目線を同じにするべくグラウンドへとしゃがみこんだ。
俺と、上条と、風祭で奇妙なトライアングルが完成。
「・・・何で、助けてくれたんですの・・・・・・?」
「何でって」
隣を見たら、風祭は上条の質問に不思議そうな顔で首を傾げていた。
「危ないって思ったから、つい」
「・・・あなたは『つい』で人を助けるんですの?」
「いや、助けるってほど大袈裟なことじゃないし」
なぁ? って風祭に話をふったら、風祭はコクコクと頷いた。
「君はつい体が動いちゃったんだよね?」
「そうそう。それって誰にでもあるし」
「だからって! ・・・・・・・・・だからって、あなたが代わりにボールを受けなくてもっ!」
「でも上条がケガしなかったから、それでいいよ」
そう言って心配させないように笑ってみたら、上条は黙ってしまって。
でもって隣の風祭も黙ってしまって。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何かしたか?俺。
「――――――――――――――っ! 帰るわよ!!」
「え、ちょ、小島!?」
ジャージ姿のままの小島に引っ張られて立ち上がる。
「麻衣子!」
小島は何故かまたぼんやりしている上条を睨んで言った。
「アンタ、明日ゆっくり話し合いましょうね・・・・・・・・・?」
グイグイと引っ張られるままに帰途へつく。
さっきの小島がどことなくスガに見えたのはおそらく俺の勘違いだろう。うん、勘違いだ勘違い。
俺は引きずられるように小島と帰っていった。
翌日、上条から謝罪と感謝を受けた。
「君は有希の恋人にはもったいないくらいの人ですわ」とまで言われたので、否定しておいた。
それをスガに話したらめちゃくちゃ笑われた。芝生を転がりまわってたから蹴ってやった。
「ざまぁみろですね」と言ったスガが昨日の小島と被ったのは俺の気のせいだろう、うん。
たぶん、ステップ4の『小島の友達に彼氏と認めてもらおう』はクリアー出来たんだと思う。
こんな感じで一歩一歩俺は小島を好きになる方向へと向かって行っていて。
いつかハッキリ小島のことを好きだと言える日が来たら、そのときは上条にもちゃんとそう言おうと思った。
・・・・・・・・・それをスガに言ったらまた爆笑されたけど。
とりあえず、今日も俺は『恋するための恋愛講座』をクリアーしていく。
小島を好きになる日、それがいつ来るのかは判らないけど。
早くその日が来ればいいなぁと思った。
2003年3月21日