「あのさ、小島。今度の日曜って予定入ってる?」
「・・・・・・別に、入ってないけど」
「じゃあ試合観に来ないか? 横浜のグラウンドでやるんだけど」
「・・・・・・試合?」
「横浜マリノスユースVS川崎ロッサユース」
「・・・・・・・・・それって、サッカー?」
「そうだけど。あ、嫌なら別にいいんだけどさ」
「・・・・・・・・・・・・ってサッカーやってたの?」



「・・・・・・・・・・・・・・・言ってなかったっけ?」





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「なるほど〜。それで彼女さんのお怒りを買ったわけですね」
「・・・・・・言ったと思ってたんだよ。会うたびにサッカーの話してたからさ、自然とそう思ってて」
「やっぱり知らなかったんですね〜、君がサッカーをやっていたこと」
「知ってたらあんなに怒りゃしねぇよ」
今思い出すだけで怖くなるんですけど。
小島って普段が可愛い分、怒るとさらに二倍増し。
いくらスガで慣れてる俺とはいえど怖いものは怖いのだ。
俺は誓ったぞ。もう二度と小島を怒らせるようなことはしないと。
「好きな人のことを知りたいと思うのは当然のことですからね〜」
「・・・・・・・・・そうなのか?」
「そうですよ〜。恋愛の最初の一歩です」
ふむ。じゃあ俺はちゃんと小島のことを恋愛対象として好きになってきてるってわけだ。
それはよかった。
「で、その彼女さんは来るんですか?」
「ああ、来るって言ってたけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・スガ」
「はい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・小島に手、出すなよ?」
・・・・・・・・・俺的にかなり本気で釘をさしたんですけど。
それなのにコイツ大口開けて笑い出しやがった!!
「スガってめぇ!」
「あはははは・・・・・・だ、大丈夫ですよ、君。僕だって親友の彼女に手を出したりはしませんから〜」
「手出したらそのヒョロ長い身体に渾身のシュートを決めてやる」
「それは痛いですって」
二人して騒ぎながらアップしてたらロッサのメンバーもフィールドに出てきた。
おぉ、真田に郭に若菜じゃん。アイツラ相変わらずカッコイイなー。
そう思って見てたら真田に睨まれたし。しかもそのままズカズカ近づいてきたし。
・・・・・・・・・俺、何かしたっけ?
ッ! 今日こそは突破してみせるからな!」
・・・・・・・・・そんなこと言われましても。
「でも真田、ちゃんとゴール決めてるじゃん」
「それはパスを回してだろ!? 俺はおまえを1対1で抜きたいんだよ!」
・・・・・・・・・だからそんなこと言われましても。
君はうちのトップディフェンダーですからね〜。そう簡単には負けませんよ〜」
「・・・何でスガが答えるんだよ」
「だって君、今日は彼女さんが来るんですからカッコイイところ見せなくちゃいけないじゃないですか〜」
・・・・・・・・・って、オイ。
「「「彼女?」」」
ハモリやがった。やっぱコイツラって相性いいんだろうなぁ。
若菜とか目がキラキラしてるんですけど。
「なになになに? って彼女できたの?」
真田を押しのけて若菜が身を乗り出してくる。好きそうだもんな、こういう話題。
「出来たっていうよりは、今までに彼女がいなかった方が俺は不思議だと思うけどね」
郭はシレッとそんなこと言いやがるし。
戸惑ってる真田が俺は一番好ましいと思うなー。
「なぁなぁ、どんなヤツ? 可愛い?」
キラキラ若菜が詰め寄って聞いてくる。
「・・・可愛いけど・・・・・・・」
そのまま視線をスタンドに動かせば、ここ3週間でずいぶん見慣れた姿が映って。
「―――――来た」
「え?」
「あ、到着したんですか〜?彼女さん」
「ああ。ちょっと行ってくる」
若菜たちをスガに預けて観客席の方に駆け寄って、一番手前のシートに座ろうとしていた小島に俺は手を振った。



「アレ? の彼女って」
「そうみたいですね〜。僕も会うのは今日が初めてなんですけど、可愛い子じゃありませんか〜」
「つーかスッゲー美少女じゃん! うっわズリィ!」
「でもとならお似合いじゃねぇの?」
「服装もジーンズにブラウスとカーディガン。試合観戦には丁度いい感じだしね」
「英士・・・・・・そのチェックは何だよ・・・」
にチャラチャラ着飾って黄色い声を飛ばすような女に引っかかってもらいたくないでしょ」
「そりゃそうだけど・・・」
「というわけで今日は彼女さんが来てますからね。君はいつも以上に手ごわいと思いますよ〜」



スガの思惑かどうかは知らないが、今日の俺はいつもより調子がいいのは本当だった。
これが小島が来てるからだとか、そんなのは判んないけど。
宣言どおり1対1を挑んできた真田にも負けなかったし、後半にはオーバーラップしてシュートも決められたし。
結局試合は2対1でマリノスユースの勝ちだった。
真田と若菜が盛大に悔しがって、郭もひっそりと再戦を決意してるみたいだったけど。
俺としては勝利が決まった瞬間に立ち上がって喜んでくれた小島の姿が何よりも嬉しかった。



っ!」
待ち合わせていた競技場の入り口で俺を見とめると、小島はまっすぐにこっちへ走ってきた。
! あんたスゴイサッカー上手いんじゃない! 何で隠してたのよ!?」
「いや、隠してたっつーか」
騒がれたくなくて言わなかったっていうのが本当のところなんだけど。
君は学校でむやみに騒がれるのが嫌で言わなかっただけなんですよ〜」
一緒に出てきたスガがニコニコといつもの顔で俺の弁解をしてくれた。それはもう心を読んだかのように!
突然口を挟んできたスガに小島が戸惑っているようなので注釈をつける。
「小島、コイツは俺のチームメイトで須釜寿樹。うちの司令塔」
「はじめまして〜」
スガがニッコリと笑う。
「で、スガ。この子が俺の彼女の小島有希」
さん付けするかどうか迷ったけど、とりあえず紹介を。
スガはニコニコ笑ってるけど何か微妙。嬉しそうでちょっと寂しそう。
君が可愛い可愛いって言うからどんな子かと思ってましたけど、本当に可愛らしい子ですね〜」
「・・・・・・・・・手、出すなって言ったよな?」
「わかってますよ〜」
スガを睨んだあと小島を見たら何故か小島は真っ赤になってた。
「小島?」
「・・・・・・・・・」
やっぱり真っ赤になったまま何も言わないし。
そうしたらスガが楽しそうに笑うし。
「苦労してますね〜」
「・・・・・・・・・まったくよ」
「・・・・・・・・・?」
笑うスガにため息をつく小島。二人して判り合ってるのが何かムカツク。
君、ちゃんと送ってあげるんですよ〜」
「言われなくても判ってるっての」
そのまま他愛もない話をしながら駅でスガと別れて、俺は小島と新宿行きの電車に乗った。



「でもがサッカーやってたなんて知らなかったわ。しかもあんなに上手いだなんて」
小島が心底驚いたように繰り返す。
帰りの電車の中では試合の戦術や良かったプレーなんかを一緒に話して。
「スガも言ってたけどさ、変に騒がれたくなかったし。黙ってるつもりじゃなかったんだけど」
「別にいいわよ。たしかにほどの実力があったら騒がれるのも仕方ないと思うしね」
「苦手なんだよ、周囲に変に期待されるのとかって」
水野とか佐藤とかよくあんなにギャラリーに叫ばれながらサッカー出来るよな。
俺も試合とかで差し入れをもらうことがあるけど、どちらかといえば黄色い声援を送る女の子よりは一生懸命応援してくれるサポーターのほうがありがたいし。
「・・・・・・はアンダー代表なの?」
見上げるように小島が聞いてくる。
アンダーってU−14の真田とか、U−15のスガとか?
「俺は違うよ。去年はトレセンには行かなかったんだ」
行きたいとは思ったけど、それ以上のチャンスが巡ってきたから。
心の中だけでそう付け足すと、ふいにスガの笑顔が浮かんできた。
いつものニコニコ笑顔で。
『好きな人のことを知りたいと思うのは当然のことですからね〜』って。
・・・・・・・・・そうだよな、当然のことなんだよな。
「・・・・・・去年は」
もう一度小島が俺を見上げて。
「去年はクラブの方で夏休みだけオランダに留学させてくれてさ、選抜の選考には出れなかったんだ」
帰ってきたときには選抜に入る枠はもうなかったし。その分クラブの試合で発散させたけど。
「留学?」
「ああ。夏休みと冬休みの間だけ。ディフェンダーからセレクションで選ばれて、オランダのクラブチームに加わってたんだ」
スガが残念がってたのを覚えてる。自分はミッドフィルダーだから選考対象に入れないって。
「・・・・・・・・・ってスゴイのね。サッカーやってるときは学校とは全然違う顔してたし」
「? 俺、変な顔してた?」
「そうじゃなくて、学校よりずっと生き生きしてたってこと」
「・・・・・・ふーん」
そういえばスガにも言われたっけ。サッカーやってるときの俺は普段とは違うって。
「サッカーが好きだから自然とそうなるのかも。・・・・・・小島もそうだろ?」
聞き返せば小島も笑ってうなずいた。
今日は俺から手を差し伸べて。
こんな風に自然と手をつなげるようになったのは進歩してる証だと思う。
つないだ手の温かさに、ちょっとだけドキドキした。



「じゃあこれでめでたくステップ2はクリアーですね」
「・・・・・・・・・おめでとう俺」
「次はステップ3『名前で呼び合おう』ですよ〜」
「名前で?」
「そうです。やっぱり名前で呼び合うのって特別な感じがしますから〜」
「・・・・・・・・・そういえば、昨日何で寂しそうだったんだ?」
「はい?」
「俺が小島を紹介したとき、ちょっと寂しそうだっただろ?」
「・・・・・・」
「スガ?」
「・・・・・・・・・まったく、君には敵いませんね。そうです、ちょっと寂しかったんですよ〜」
「何で」
「だって君が取られちゃったんですから〜。親友を取られて悲しまない人はいないでしょう?」
「俺のフィールドでの居場所はオマエの隣だよ」
「・・・判ってます。君はたとえ彼女が出来ても結婚してもずーっと僕の親友ですよね〜」
「・・・ああ」
「じゃあ今度はステップ3頑張ってくださいね〜」
「・・・・・・・・・善処します」



スガに乗せられてるような気がしなくもないけれど。
俺が小島を好きになりつつあるのは事実のようで。
ジェットコースターみたいに速くはないけれど、俺の精一杯のスピードで好きになるから。
もう少しだけ、待ってて下さい。
明日はクラブがないから小島を待って一緒に帰ろう。
電車から見える星を眺めて、俺はそう決めた。





2002年11月23日