呼び止められて振り向いた。



「アンタが好き。私とつき合って」



真剣な目に気圧されて俺はつい頷きそうになった。





恋愛は先制攻撃





「――――――で、どうするよ? スガ」
練習場から駅への帰り道、俺は隣を歩くチームメイトの須釜寿樹を見上げて言った。
そしたらコイツ、苦笑しやがるし。
「どうすると聞かれても、僕は何も言えませんよ〜。告白されたのは君なんですから」
「だーかーらー俺は参考までに意見を聞いてるわけ」
「そうですね、どうしましょうか〜」
ニコニコ笑いながら首を傾げるスガ。・・・これでコイツちゃんと考えてんのか?
「とりあえず君は何て返事をしたんですか?」
「・・・・・・・・・『一日待って』って・・・・・・・・・」
「・・・・・・それはそれは」
ますます笑いやがるスガ。・・・・・・・・・ちくしょう、何も言い返せねぇ。
俺だって判ってるっての。ずいぶん情けないことを言ったくらいさ。
「相手の女の子はどういう子なんですか〜?」
とりあえず外堀から埋めていくことにしたらしい。試合運びと同じだ。なんとなくスガらしくて笑える。
「名前は小島有希っていって・・・・・・クラスメイトだよ」
少なくとも俺はそう思っていた。
けれど、小島にとっての俺はどうやら違っていたみたいで。
真剣な瞳を思い出す。
「容姿は・・・美少女系だと思う。学校でも男に人気あるし。でも性格はどっちかっていうと男らしいかな。ハッキリ物を言うタイプ」
「美少女ですか〜。やりましたねぇ、君」
「うん、俺もマジで不思議に思う」
何で小島は俺を好きになったんだろう。学校での俺は目立たなくて大人しい一介の男子生徒なのに。
「その子は君がサッカーをやっているって知ってるんですか〜?」
それは多分・・・・・・。
「知らないと思う。俺、ユースのこと学校の奴らに言ったことないし」
「そうですか〜」
ニコニコと微笑むスガ。
でも俺には判るぞ。何だか嬉しそうに笑ってるだろ。
伊達にジュニアの頃から一緒にサッカーしてきたわけじゃないからな。
「ならスゴイですね〜。サッカーやってる君じゃない君をその子は好きになったわけですか〜」
「・・・・・・・・・」
うん、スゴイ。小島ってスゴイよな。
俺はこれでもこの年代のクラブでは結構名の知れてる方だから。
騒がれるのが嫌で学校では大人しく過ごしていたはずなのに、俺ってばどっかでミスでもしてたのかな。
「・・・・・・そういえば、小島もサッカーやってる」
「そうなんですか?」
あ、スガも驚いた。
「ああ。最初は男子のマネージャーとかやってたけど、いつのまにか女子サッカー部を作ってたし。結構上手いみたいだけど」
「ポジションはどこですか?」
「MF」
校庭で練習してるのを見たことあるし、たぶん間違ってないと思う。
割と綺麗なパスを通してた。中央を任されるタイプかな。
「僕と同じですね〜」
スガが笑う。やっぱり同じサッカーをしている者として、相手がどんなプレーをするのかは気になるよな。
それが男だろうと女だろうと。
「でも小島は部活サッカーだからクラブの俺とは接点ないしなぁ」
好かれる要因が一個も思い浮かばないっていうのはちょっと悲しいんだけど。
「いいじゃないですか〜。きっとその子は君の良さを見抜いたんですよ」
「良さって・・・・・・・・・」
「僕はその子はいい選択をしたと思いますよ〜。何せ君はカッコイイですから」
「カッコイイっていうのはロッサの三人みたいなのを言うんだよ」
「真田君たちはたしかにそうですけどね〜。でも君のカッコよさは顔だけじゃありませんから〜」
「俺はスガのほうがカッコイイと思うけどな」
おまえ、今日も差し入れに来てた女の子に告られてたろ。うん、結構可愛い子だった気がする。
「ありがとうございます〜」
だから何でそんなに楽しそうに笑ってるんだよ?不気味だぞ。
「僕は嬉しいんですよ〜。サッカーをしている君ではなくて、学校の君を好きになってくれる女の子がいて」
「・・・・・・・・・?」
「サッカーをしている君は無条件でカッコイイですから。そうでないときの君を見て、君の持つカッコよさに気づくなんて並大抵の女の子じゃありませんよ〜」
「・・・・・・・・・何かヒドイ言われような気がするのは気のせいじゃないよな?」
「だって学校での君は目立たない生徒なんでしょう? だったらそう思われても仕方ないじゃありませんか〜」
「たしかに、そうだけど」
本当に何で小島は俺を好きになったんだろう。
俺の何を見て、どこを好きになったんだろう。
「本人に聞いてみればいいじゃないですか〜」
「それができりゃ苦労しないっつーの」
ニコニコと笑うスガにエルボーを食らわせて俺は定期を取り出した。
これから東横線に乗って新宿まで帰らなくちゃいけないんだ。
君」
別れ際に声をかけられて俺は振り向いた。
ニコニコと相変わらず穏やかに笑っているスガがいて。
「つき合っていく内に好きになるっていうのも、僕はありだと思いますよ」
いつもと変わらない声でスガが言うから、俺も笑って頷いた。
返事はまだ、決まらない。



「小島」
「・・・・・・何、
「昨日の返事、しようと思って」
放課後、今日はクラブもなくてゆっくり出来る俺とは逆に、部活へと行こうとしてる小島を呼び止めた。
用件を言った途端、小島の顔が強張って。
ちょっと勿体無い。せっかくの可愛い顔なのに。
教室は帰りの用意でざわめいていて、俺たちの会話は聞こえない。
一日、必死で考えたんだ。こんなに頭を使ったのはテストのときくらいかもしれない。
サッカーでは身体が反射的に動きから頭を使うことはそんなにないし。
―――――――――――って話がズレてるって。
「・・・俺、週に四日は用事があるからあんまり会ったりとか出来ないと思う」
クラブに入ってることは言わない。言わなくてもいいことだと思ったし、いつか時期が来たら言えばいい。
「小島のことも好きかどうか判らない。正直、どうして小島が俺を好きになってくれたのかも判らないし」
でも、一日考えて思ったんだ。
「でも俺は小島のことを好きになりたいと思う。・・・・・・少なくとも、もっと小島のことを知りたいと思うよ」
だから、都合のいいことを言うけれど。
「・・・・・・つき合っていくうちに好きになるっていうことじゃ、ダメ、かな」
昨日、スガに言われた台詞。ずっと考えてみたんだ。
俺は小島のことをほとんど知らないし、つき合うっていってもそんなに恋人らしいことは出来ないと思う。
それでも、知りたいと思った。
小島が俺を見ていてくれたように、俺も小島を見て小島のいいところを探したいって思った。
そして、好きになっていけたら。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・小島?」
「・・・・・・・・・つまりは」
まっすぐに、気持ちを告げたときと同じように真剣に俺を見つめて。
が私を好きになる可能性は十分にあるってことよね?」
「あ、あぁ」
「ならいいわ。必ず好きにならせてみせるから」
自信ありげに小島が笑った。
何だかものすごく自信ありげなのはどうしてなんだ? 俺、そんなに惚れっぽいって思われてるのか?
それはまた微妙な・・・。
「じゃあ今日からは私の彼氏ってことで」
「・・・・・・それじゃ、小島は俺の・・・」
彼女、って言ってもいいのかな。
中途半端な俺がそう言ってもいいのだろうか。
言いよどんでいたら小島は何てことなさそうに明るく笑った。
「私は、の彼女よ」
・・・・・・・・・あぁもう、だから何でそんなに自信ありげなんだよ。
でもうっすらと頬を紅く染めた小島を可愛いと思ってしまった俺は、やっぱり惚れっぽいのかもしれない。



とりあえず、本日付で俺と小島は彼氏彼女になりました。





2002年11月17日