穏やかな心
こんな気持ちになれたのは、何時ぶりか
判らないくらい、昔
でも今は違う



あのときよりも、満ち足りた気持ちで





a godchild did godless doings





「・・・・・・・・・・・、おまえ今・・・・・・」
父さんの目が見開かれて
母さんが肩を震わす
従姉は邪魔にならないようにと、部屋へ引き上げてくれて
残ったのは、俺たち四人



この瞬間のリョーマの顔
きっと一生、忘れない



信じられないのならもう一度言うよ
何度だって、言ってみせる



「俺は青学には入らない。氷帝に行く」



それはもう決めたこと
諦めない
覆さない
妥協も同情もするものか
俺はもう一度
焦がれるほどの、あの場所へ



「氷帝に、行く」



言葉にすればするほど、確たる気持ちへ



「――――――・・・・・・っんだよ、ソレ!? 何言ってんの!?」
「うるさいリョーマ。これは俺の問題だ。口を出すな」
「俺の問題!? 何ソレ・・・・・・っ!」
「―――リョーマ」
父さんに名を呼ばれてリョーマが黙る
普段は生臭坊主でも、やっぱり父さんは父さんだから
一家の長であり、俺の父だから
その血を引き継いでいる、俺とリョーマ
一緒に生まれなければ良かったのかも知れないなんて
・・・・・・・・・何度、思ったことか




「・・・・・・・・・何?」
「氷帝を観に行ったのか」
「うん」
「・・・・・・そうか」
「うん」



リョーマは俺のすぐ横で唇を噛み締めて
母さんはダイニングの椅子からこっちを見ていて
父さんは、まっすぐに俺を



だから俺もまっすぐに父を見た



「氷帝が、いいんだな?」
「―――うん」



何かを感じ取っていたのだろうか
父さんは自分の頭を何度か掻いて
そしてため息を一つ吐いて言った



「・・・・・・・・・ま、には学ランよりブレザーの方が似合うだろうしな」



・・・・・・・・・許可を、得た



――――――やった
やったやったやった
やった!
あの場所へ行ける
あの人たちに会える
一緒にテニスを出来る



――――――――――やった!



「俺は許さないっ!」
思い切り右腕を引かれた



「・・・・・・・・・リョーマ」
目の前に、同じ顔
俺と同じ
「許さない! なんで・・・・・・っなんで今さらそんなこと言うわけ!? 一緒に青学行くって言ったじゃん!」
「・・・・・・それはまだ、氷帝を知らなかった頃の話だろ」
「関係ない! 俺はと一緒がいいっ」
「・・・・・・・・・」
「俺も、氷帝に行く!」



気がついたとき、俺の左手はリョーマの頬を打っていた



「・・・・・・・・・・そんな、簡単に言うな」
俺の、手にした場所を
「リョーマに、氷帝に入ってなんか欲しくない。それが俺と一緒だからなんて理由なら、尚更」
やっと見つけた、人を
「リョーマは、青学に行けよ。俺は、氷帝に行くから」
大切な、想いを
「・・・・・・・・・リョーマ」



赤みを帯びていく頬を撫でたかったけれど、今触れたら進めなくなるから
・・・・・・・・・だから





「さよなら、だ」





もう俺はおまえと一緒にいられない
見つけて、しまったから



リョーマ



「――――――――――っ」
階段を駆け上がっていく足音を聞いて、感傷的な気分になった
自分から言ったのに
そう思うのは傲慢なのだろうけれど
それでも



愛してるよリョーマ、俺の半身
隣を歩けるほど、強くなくてゴメン
だけどずっと、傍にいるから



今度は味方ではなく、敵として
リョーマの傍に



「・・・・・・・・・辞めるんじゃねーぞ、テニス」
父さんの言葉に深く頷いた
「私も明日、学校を見てこようかしら。ここからはどれくらい?」
微笑む母さんに、俺も笑顔を返して
ありがとう、と一言告げた



ありがとう
ありがとう
ありがとう



今までテニスを続けてきて良かった
出会えるか判らない誰かのために、テニスを辞めずに来て本当に良かった
そんな誰かが、存在してくれて本当に良かった
出会えて、良かった



これからの未来を思うと胸が躍る
ずっと、この気持ちが続きますように



ずっと、テニスを好きでいられますように



今出来る精一杯の祈りを、空へと捧ぐ
神様なんかじゃなく、自分へ
昨日よりも今日よりも、明日は少しでも強くなれますように
いつか自分ひとりの力で、立てますように



大好きな人たちを、胸を張って好きだと言えますように



ありがとう
出会えたすべてのものに、感謝を
生まれてきて良かった



テニスを始めて良かったと、心から思うよ



―――――――――ありがとう





2003年3月28日