アメリカを去らなくてはいけなくなったとき
俺は、テニスを辞めようと思っていた
このまま続けても得られるものなんてないと思っていたから
失うものばかりだと思っていたから
俺は決してリョーマのようになれないのだと、気づいてしまったから
辞めようと思った



だけどもう辞められない
見つけてしまった





a godchild did godless doings





「そこまでだ」
ボールとステップ、俺と跡部さんの息遣いしか聞こえなかったコートに
第三者の声が響いた
それは落ち着いたものだけれど、俺たちを制止させるのには十分で
思わず、声のした方を見上げた
そこに立つ、スーツ姿の男性
目が合った瞬間に、何かが体の奥を駆け抜けた



自分の中の熱が、穏やかに引いていくのを感じる
・・・・・・・・・あぁ



満たされるって、こういうことだったんだ



俺たちの試合を見ていた部員の人たちが、現れた男性に頭を下げる
監督、なんだろうか
きっとそうなんだろうな
その肩書きに相応しい人だから
父さんとはまた違う強さを感じる



背の低い俺は、この人を見上げることしか出来なくて
「君の名は?」
「・・・・・・・・、です」
俺は今ものすごく満ち足りた気持ちだから
だから、きっと
「越前といいます」
何の苦痛もなく、苗字を名乗れたのだと思う
「そうか」
うっすらと微笑を浮かべたこの人を、何となく信じられると思った
ここは、居心地がいい



「私の名は榊太郎。氷帝テニス部の顧問を務めている」
榊、太郎さん。
その名を深く刻み込んで。
「君は、とてもテニスが上手いのだな。うちの頂点に立つ跡部と同じくらいに」
「いえ、そんなことはありません」
「謙遜することはない」
時間つぶしだけの挨拶はいらないか
それすらも好ましいと思う・・・・・・・・・・・・思ってしまう
どうしよう、俺



「うちに来る気はないか?」



・・・・・・・・・・・・どうしよう



どうしようどうしようどうしよう



「君ほどの才能を持った子をこのままにしておく訳にはいかない」
このまま?
「その自傷的なテニスを、辞めるべきだ」
自傷的なテニス
「君は変わることが出来る」
変われ、る?
「ここならば」
ココ
「氷帝ならば」



「君のテニスにも屈することなく笑える者がいるのだから」



「・・・・・・・・・・・・違うかな?」
榊さんの言葉に俺は見開いていた目を瞬いて
笑える、者
俺のテニスに、負けない
ずっと共に
テニスをしていける
仲間が



俺を認めてくれる?
俺を受け入れてくれる?
俺を肯定してくれる?



どうしよう
どうしよう
どうしようどうしよう
・・・・・・・・・・・・どうしよう



自然と周囲を見回したら
すぐ近くに跡部さんが見えた
浮かべられたその、笑み
・・・・・・・・・・・・それだけで十分



泣きそうなくらい、暖かい場所



「・・・・・・・・・・榊さん」
ラケットを握り締めて、俺は口を開いた



どうしよう
俺、やっぱりテニスが好きだ



―――――――――辞めたくない





2003年3月25日