フェンスを掴んでいた筋の浮かんだ手
泣きそうな顔をしたガキ
笑えと、言いたかった
a godchild did godless doings
少し遅れて部活に行く途中
見たこともない後ろ姿を見つけた
真っ黒なコートに身を包んだ、背の小さなガキ
どこからどうみても氷帝の生徒じゃねぇ
「おい、オマエ」
かけた声に振り向いた顔は
綺麗に整っていたけれど、どこか辛そうだった
だからか知らねぇが、追い返す気にもならなかった
「オマエ、名前は?」
コートへ引きずり込んで名前を聞けば
ラケットを片手にガキは俯いたまま
「・・・・・・・・・、です」
震えた声
何がコイツをここまで追い詰める?
「じゃあ始めるぞ」
軽く肩を押してライン際まで歩かせた
重い足取り
髪で隠れた顔
「ベスト・オブ・ワンセットマッチ! 、サービスプレイ!」
開始が宣言されても動く様子がない
それが俺を苛立たせる
「俺は勝つ」
・・・・・・・・・だから、笑えよ
ゲームが始まってみればコイツの実力に俺は拍子抜けした
ラケットが自分のものではないことを差し引いても、精彩の欠けた動き
確かに足はそれなりに速い
打ち返すフォームは丁寧で正確
だけどそれだけだ
コイツには決定的なものがない
俺にテニスを辞めさせるだけのものが、コイツのどこにある?
「―――――――――ふざけんな」
打たれた力ないショットを無視した
やる気が殺がれた
期待外れだ
コイツは瞬間的にやる奴だと思ったのによ
俺の勘違いか
―――――――――それとも
「本気でやる価値もねぇってか、俺は」
顔を上げるソイツに、自虐的な台詞で笑ってやった
「自分で強いって言うから期待してたのによ、オマエは俺を見下すわけだ」
顔を歪めるソイツに、見せ付けるように悲しそうに
「それ以上の侮辱ってないんじゃねぇ?」
泣きそうな顔をするな
前を向いて笑え
誰にも卑屈になるな
上を向いて生きろ
苛立たしさと衝動
初めて会ったガキに何でここまで
だけど止まらない
コイツの本気が見たい
「見くびってんじゃねぇよ、バーカ」
軽く笑ってやると、ソイツは顔を上げた
「俺様相手に手加減なんて100年早い」
「・・・・・・・・・・・・で、も」
まだ何か言おうとするソイツに俺はテニスボールを投げつけた
「そんなに簡単にやられるように見えるか? この俺が」
「・・・・・・・・・」
「見えるなら見える、見えないなら見えない。ちゃんと言え」
強めに言うと、ソイツは少し躊躇った後で呟いた
「・・・・・・・・・・・・見えません・・・・・・けど、」
「『けど』じゃねぇ」
「・・・・・・あなたに、テニスを辞めてほしくない」
「辞めねぇよ、俺は」
「そんなこと、判らない。俺のテニスは酷いから」
「どう酷いって?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「言ってみせろよ」
最初は調子が出なくて
試合が運ぶにつれてペースが上がって
相手を蔑するような
高慢なテニスを
相手を潰すだけのテニスを
そんなテニスしか出来ないのだ、と
泣きそうな顔でソイツは笑った
そんな顔が見たいんじゃねぇ
「―――――――――笑えよ、バーカ」
笑わせてやると決めた
コイツの本気を引きずり出してやる
2003年3月23日