あのときのリョーマの顔は今でもハッキリと覚えてる
きっと一生、忘れない
a godchild did godless doings
記憶にさえない祖国は、俺にとっては異国だった
家に入るには靴を脱ぎ、車が左車線を走り、道に根を張るストリートキッズもいない
平和で安穏とした国
それが俺の日本に対する第一印象だった
日本に来て荷物を解き、一段落ついたときに父さんと車に乗せられて
リョーマと二人、大きな建物の前で降ろされた
アメリカの学校に比べたらゴチャゴチャとしていて
でもそれは確かに学校だった
青春学園中等部
事務の人に案内されて、冬休み中で人気もない学校を歩き回った
テニスが強いと聞いたときの、リョーマの顔
唇を吊り上げて笑った、楽しそうな姿
俺は、そうならないように唇に歯を立てて
学校は思ったよりも広かった
父さんが俺とリョーマを青学に入れたいということは判っていた
何度も、自分を世界へと送り出した恩師の話をしてたし
いい学校なんだろうと、俺も何とはなしに思っていた
―――――――――――――だけど
「さん、お出かけなさるの?」
玄関口で後ろから声をかけてきた従姉に、振り返って
「荷物も片付いたからちょっと街とか見てくるよ」
「迷子にならないようにね」
クスクスと笑って言われた言葉に、俺も笑みを返して
境内の上からはボールを打つ音が聞こえてくる
俺は背を向けて歩き出した
「我が校は落ち着いた環境で勉学に励むことを第一としておりまして、学園の施設には他校よりも気を配っております」
笑顔で話す年配の女性に導かれて、俺は広い廊下を歩いていた
来客用スリッパの音がよく響いて
「生徒には政財界のご息女を始め、よい家柄のお子さんがたくさんいらっしゃいますので、警備もしっかりとしたシステムを用いているんですよ」
生徒たちはカード化された身分証明書をもってして、学園の生徒であることを示すらしい
とんだ高級志向
そんなに大事なら学校なんか通わせずに家に閉じ込めておけばいいのに
そうすれば、取られなくて済むのに
「他にも地方から勉強・スポーツともに成績優秀な生徒さんを集めて、より一層の向上を務めております」
渡されたパンフレットに載っていた入学金と授業料は青学と大して変わらなかった
寄付で賄っているんだろう、この大仰な設備は
「・・・・・・こちらの学校はテニスが強いとお聞きしましたが」
「ええ、ええ。昨年は関東大会で準優勝、全国大会でもベスト8の成績を収めました」
「それは素晴らしいですね」
心にもない言葉でその場を取り繕って
後は自分で見て回るからと、断ってからその場を去った
貼り付けた笑顔を消して、俺は歩く
氷帝学園
この街に来てから青学以外に初めて聞いた名前がそれだった
坊ちゃん嬢ちゃんの通う、金持ち学校
学術のレベルもスポーツのレベルも全国区で、中でもテニス部が強いと聞いた
―――――――――――テニス部
調べれば青学以外にも都内には強い学校がいくつかあって
山吹と、聖ルドルフ、銀華のパンフレットを取り寄せて読んだけれど
俺は、どうしてもこの学校が気になって
耳に挟んだ噂
この、氷帝学園テニス部のシステム
『敗者切り捨て』
さっき教えられた場所に近づくにつれて、家でも毎日聞いている音が響いてきた
200人の部員がいると言ってたのを思い出す
強いのはきっと、その中でもほんの一握りだろうけど
どれほど強い?
俺とゲームをしても負けないほど強い?
それが知りたい
見つけたコートは全部で8面
日本の中学にしてはかなり多い方だろう
青学にも5面しかなかったし
けれどそのうちの半分はガランとしていて、もう半分は多すぎる部員で騒がしかった
・・・・・・・・・その二つではレベルが違って
空いている方のコートでは結構鋭いボールが打ち込まれていた
あれが、『正レギュラー』か
ここでなら
ここでなら俺はテニスを出来るだろうか
俺の、テニスをしても大丈夫だろうか
誰かを、傷つけずに済むだろうか
一人でも俺は、テニスを続けられるだろうか
少なからず抱く不安
でも、あのレギュラーなら俺と試合をしてくれるかもしれない
俺のテニスを受け止めてくれるかもしれない
絶望をもたらすのと同じくらいのレート
それよりも尚低く
コートでは綺麗なスマッシュが決められていた
俺は、テニスが出来るだろうか
「おい、オマエ」
後ろからかけられた声に、俺はゆっくりと振り向いた
2002年12月7日