温かくて
優しい
場所
人
物
俺はまだ、手放せない
・・・・・・・・・・・・・・手放したくなんか、ない
can’t see anything in my hands
熱いシャワーを浴びて出ると、そこには服が用意されていた
俺の着てたジャージじゃない
シンプルでセンスの良い私服
しかも、俺サイズの
温かさに、目が霞む
「・・・・・・・・・ハイ、明日はうちから学校に行きますので。えぇ、ハイ判りました」
携帯電話を片手に、跡部さんが話している
手がヒラヒラと揺れて、ソファーを示して
逆らう理由がないから、俺は言われたとおりソファーに座る
ふわふわのスプリング
まだ濡れている髪に触れる手
タオルで、柔らかく擦られて
「いえ、そんなことはありません。・・・・・・・・こちらこそ。では失礼します」
ピッと、通話を切った音がした
そして髪に触れる手が一つ増える
優しい、手
大きな、手
大好きな、手
ここは、こんなにも温かい
「・・・・・・・・・父さん、何て言ってました?」
「よろしく、だとよ」
「そうですか」
声が思ってたよりも普通に出る
・・・・・・良かった
髪が乾くと、二つの手は俺の口元へと回された
ピリッとした痛みが、小さく走る
俺が顔を歪めてしまったのか、跡部さんが眉を顰めて
「顔に傷作るんじゃねーよ」
言葉と裏腹に、消毒する手はひどく優しい
だから俺も、素直に頷ける
「・・・・・・ごめんなさい」
不愉快な思いをさせてしまって
すみませんでした
大きな跡部さんの家の、大きな跡部さんの部屋の、大きな跡部さんのベッドで
俺は、小さくなって眠る
ふわふわのベッドが柔らかいから
ふかふかの布団が温かいから
そんな理由ならいくつでもあるけれど、そんなんじゃなくって
この場所は、気持ちがいい
跡部さんがいるから、居心地がいい
髪を撫でる手とか
隣にある体温
穏やかな空気と優しい笑み
すべてが、俺にとって居心地良くて
気がつけば、俺はこの部屋にいることが多いかもしれない
特に、弱っているときとか
跡部さんの傍にいることが多いかもしれない
――――――――――多いと、思う
「寝ろ」
子守唄のように、誘う声
「明日になれば、また安心できるから」
癒すように、撫でる手
「俺が、安心させてやるから」
守るように、抱きしめる腕
「だから今は寝ろ」
少しだけ、強く
「俺がここに、いるから」
温かさと心地よさで瞼が自然と下りる
この場所は居心地が良すぎて、もう離れることは出来ないかもしれない
失いたくないと、思い始めてしまったかもしれない
だってそれほどまでに、居心地がいいんだ
こんなに気持ちいいと思ったのは、リョーマ以来なんだ
だから、今だけ
今だけでいいから
もう少しだけ、この場所に
あなたの傍に、いさせて下さい
夢さえも見ずに、俺は眠る
どこか遠くで、跡部さんが俺の名を呼んだ気がした
それでも俺は目覚めることなく
意識は柔らかな波を漂って
ただ、眠る
俺は居心地の良い温かな場所で眠る
だとしたら、リョーマはどこで眠るんだろう
意識が沈む前に、そんなことを考えた気がする
けれど、それも一瞬のことだった
2004年5月3日