『あの・・・さ、兄貴』
「何? 珍しいね、裕太が電話してくるなんて」
しかも僕に、と楽しそうに嬉しそうに笑って。
『いや、ちょっと聞きたいことがあって・・・・・・』
「うん?」
『青学に越前リョーマっているだろ? この前、俺と対戦した』
「うん、いるけど。越前がどうかした?」
少しの沈黙
聞くか聞かぬか迷った挙句
好奇心にすべてが負けた
『アイツ・・・・・・・・・双子なんだって、兄貴知ってたか?』
want to be holding out on you
告げられた事実に耳を疑った
渡された写真に目を見開いた
つい先日、同じチームのマネージャーによってもたらされた情報はとても信じられないもので
確認しようと思って受話器を取った
少なくとも二人のうち一人とは親しいであろう相手の元へ
『越前が双子・・・・・・?』
呆然とした声音は何よりも明確な答え
「ああ。・・・・・・・・・氷帝の一年で、テニス部だって」
『・・・・・・・・・』
「この前コンソレーションのときに見かけたけど・・・・・・・・・・・マジで、そっくりだった」
思い返しても一人の姿しか浮かばない
二人いるはずなのに
試合会場
氷帝
越前リョーマ
ふと思い出した友人の態度
いつも明るい彼とは全然違って、戸惑って俯いていた無言の姿
その視線の先には誰がいた?
それはたしか―――――――――――
『・・・・・・・・・彼の、名前は?』
「。越前」
『他に何か知ってることはある?』
ためらうように口を閉じて、また開いて
「・・・プレーは判らないけど、氷帝の準レギュラーの中じゃ一番正レギュラーに近いって観月さんが言ってた。あと、左利きだって」
そう、と頷いた相手に付け加えるようにそれと、と告げて
「越前リョーマにソックリだった。外見も・・・・・・・・・印象、も」
少しだけ長い髪
見え隠れする紅いピアス
一目見ただけでは判らない
二人横に並べて初めて気づく相違点
限りなく、少数の
微かな
ただ似ているだけなら別に構わない
だけど、拭い切れない疑問も浮かぶ
どうして同じ学校じゃないのか、とか
どうして双子なのを越前は黙っているのか、とか
どうしてあの日の英二はあんなに泣きそうな顔をしていたのか、とか
判らない
けれど判る
すべての鍵はあの二人が握っているのだと
越前リョーマと越前が
「・・・・・・それで、裕太はそれを僕に知らせてどうしたいの?」
棘のある声
波立っていく心の内
『別に、どうしたいって・・・・・・』
「越前に聞けばいいの? 『越前は双子なんだ?』って」
『だから別に・・・・・・』
「越前が言いたくないことなのかもしれないのに、僕に聞けっていうの?」
『・・・・・・・・・っ』
「裕太が僕を嫌いなように越前だってその双子のことを憎く思ってるのかもしれないのに、それを僕に聞けっていうの?」
『・・・・・・・・・兄貴っ!』
「それって、残酷だと思わない?」
止まらない言葉
傷つけるだけだと判っていて
理解しあえる日まで待っていようと思っていたのに
重ねてしまったから
片割れの存在を明かそうとしない越前リョーマと
自分を厭ましく思って居場所を変えた弟と
重ねてしまったから
周囲を動揺させる越前リョーマの片割れと
拒まれている自分自身と
重ねてしまったから
だから聞けない
聞きたくない
これ以上否定なんて、されたくない
「・・・・・・・・・ごめん」
震える声が情けないと思う
「ごめん、兄貴。俺本当にそんなつもりじゃなかったんだ」
捲くし立てるように言葉は口をついて
「ただ、越前が双子ならもう片方のヤツもテニスがすごい上手いんだろうと思って、兄貴なら越前と同じ学校だから何か知ってるのかもとか、思って」
じんわりと浮かんだ涙を拭いもせずに
「兄貴がそんな風に考えるだなんて、思ってもなかった。・・・・・・本当にごめん」
嫌いなわけじゃない
自分の目指すべき人
嫌いになれるはずがない
自分を導いてくれた人
今はまだ言葉には出来ないけれど
いつか
いつかきっと
「・・・・・・うん」
目を閉じて
「ごめん、裕太。僕もひどいこと言ったね」
囁くように言葉を紡いで
「越前にそれとなく聞いてみるよ。彼が答えてくれるかどうかは、また別だけど」
『・・・・・・・・・兄貴』
「ごめん、裕太。僕なら大丈夫だから」
愚かな行動を恥ずかしくさえ思ってしまって
もっと余裕を持って受け止められたらいいのに
戸惑いも怒りも
受け止められたらいいのに
つないでいた受話器をそっと下ろして
小さく、ため息をついて
自分の行動と相手の気持ちを思い出す
そのたびに自己嫌悪して
それでも前に進んでいくんだ
ふとしたことから得てしまった事実
彼がそれを隠しているのはどうしてなのか
聞かれないから言わないだなんて、そんなことじゃ済まされない
だって彼はそんな素振りなんて一つも見せなかった
その存在なんてないかのように
彼は一人だった
テニスコートで見かけた小さな姿
彼よりも背の高い選手たちに囲まれて笑っていた姿
それは知っていた人物とまったく同じで
けれどそんな表情は絶対にしないはずで
別人だと判ったけれど同じ人物だとも思った
彼は一人じゃなかった
周囲を巻き込んで迷走する
笑顔と涙をその顔に浮かべながら
ときに近づいてときに離れて
けれど求めるものは唯一つ
自分にとって一人だけ
赦し赦されることの出来る存在
それは世界の果てよりも遠くにあるものだと判ってはいるけれど
求めずにはいられないのだから
ただ今は願うだけ
願う、だけ
2002年11月24日