パンッとボールを打つ音が聞こえてきて
この打ち方だとだな
リョーマとじゃインパクト音が微妙に違うから判りやすい
外見なんかじゃアイツラは同じに見えてしまうから
a one-man stage play
「よう、青少年。今日は部活は休みなのか?」
境内の石壁を相手に息子はラリーを繰り返す
「休みだよ。大会も終わったから監督が骨休みってね」
「あぁ成る程」
一定のインパクト音はある種のリズムを刻んでいる
リョーマじゃこうは行かねーな
アイツはムラがあるから
先日行われた関東大会で
とリョーマの学校は一回戦からぶち当たった
親の立場から言わせてもらえば、何て勿体ねぇと思ったけれど
結局、二人いる息子のうち一人しかコートには立たなくて
もう一人は、立てなくて
それにひどく憤っていたのを思い出す
コートに立てなかったではなく
リョーマがひどく、怒っていたのを
がコートに立てなかったのは実力不足なんかじゃない
それを言うなら、にはシングルスでも大将を務られる程の実力があるはずだ
けれどそれをしなかったのは
監督と、チームのため
とリョーマが戦えばどちらが勝つかは判らない
実力と才能に差はないのだから
勝敗を決めるのはその瞬間の『運』だ
それに賭けるのはあまりに危険
そう判断したんだろう、の学校の監督は
「、久しぶりに相手してやろうか」
テニスに誘うのは久しぶり
ここ最近はリョーマの相手ばかりしてたから
片割れがコートにいる限り、もう片方は絶対に来ようとはしない
も、リョーマも
プレイヤーとしちゃその気持ちも判るが
親としちゃちょっと悲しいのも事実だな
ゲームを始めるとは思っていたよりもパワーが上がっていた
打ち返すボールが前よりも強くなってやがる
こりゃ部活でいいメニューでも組んでもらってるんだろう
コートの端から端まで走る速さも
打ち返すときの腕の振りも
コイツラはほとんど変わらない
見間違えてしまうほどに
同じ左利きで
同じツイストサーブで
同じ片足のスプリットステップで
けれど試合をしてみれば判る
とリョーマは決定的に違うということが
は完全なスロースターターだ
始めの1セットはただ返すだけでろくに実力も見せやしない
だんだんと体が熱くなっていくと同時にやっと目覚める
テニスプレイヤー・越前が
リョーマが完全な攻撃タイプなのに対し、はバランスの取れた試合運びをする
緩急も、ゲームの流れも、攻めるべきときも、守るべきときも
はすべてをバランスよく配置して
けれど甘い隙は絶対に見逃さず、相手を追い詰めて
そして勝利を収める
セットが増えるに連れてはますます力を増して
最後には必ず笑うのだ
リョーマが短期集中型なのに対し、は長期集中型だ
もちろんスローペースで始まって、だんだんと集中力を増していくのだが
対戦相手としては嫌な相手この上ない
最初は優位に立っていたのに後から後から追い詰められて、最後には無残にもやられてしまうのだから
実際にと対戦し、負けてテニスを止めたっていうヤツも少なからずいた
・・・・・・まったく、誰に似たんだろうな
俺はどちらかといえばリョーマと同じ短期集中の攻撃型だし
きっと、はアイツに似たんだろう
アメリカで俺と一緒にコイツラにテニスを教えていたアイツに
はきっと、アイツに似たんだ
「なあ、」
打ち返すボールに軽々と追いついて
「おまえ、悔しかったろ。リョーマと対戦できなくてよ」
「・・・・・・・・・別に」
反応は意外と早く返された
「アレはアレでよかったんだよ。俺とリョーマが戦ったってどっちが勝つかなんて判らなかったんだから、当然の選択だろ」
「でも思っただろ? 『俺が出てれば勝てたのに』ってな」
「―――――――――そんなの」
インパクト音が一段と大きくなって
「思ったに決まってんだろ」
ほぅら、やっぱり
とリョーマの学校が当たると判ったときの二人の反応は微妙なものだった
リョーマは戸惑ったように顔を歪めた後で笑い
はため息をついた後で微かに眉を顰めた
頭のどこかで知っていたんだろう
自分がリョーマと対戦することはないであろう事実を
「あの大会は俺とリョーマのためじゃない。チームのためのものだったんだから、アレでよかったんだよ」
「でも青学はリョーマを出してきたじゃねぇか」
あのバアサンのことだ
相手はきっとを出してくるだろうと読んでいたんだろう
けれど
「榊監督は俺よりも日吉先輩の方がリョーマに対して勝算があるって踏んだ。それだけ」
勝算がある
本当にそれだけか?
戦わせたくなかったんじゃないのか?
リョーマとを
この二人がぶつかったら
ただの勝ち負けじゃ終わらない
どちらかは必ず潰れるだろう
相手の存在に押しつぶされて
自分を
失って
コートを駆け回るたびに揺れる黒髪
耳元で光るピアス
リョーマには出来ない笑い方では笑った
「来年になれば嫌でも当たるさ。―――――――――それで、氷帝が勝つんだ」
変わらぬフォームから繰り出されたドロップショット
音もなくコートに舞い落ちて
・・・・・・・・・まいったな、こりゃ
やべぇぞ、リョーマ
は俺が思ってたよりももっともっと強くなってやがる
そしてこれからも強くなっていくんだ
たった、一人で
おまえもそれ相応の努力をしねーとすぐに引き離されちまうぜ
ずっと一緒だった二人が
一人に
独りに
打ち付けるショットは相変わらずの威力と正確さで
これでは近い未来華々しく公式戦デビューを飾ることになるのだろう
そしてそのときはきっと
リョーマと視線も合わさずに
一人のテニスプレイヤーとして
高めあえる仲間と共に
リョーマの倒すべき敵としてコートに立つんだ
想像に難くない未来を描いて俺は思わず笑みを漏らした
父親として
テニスプレイヤーとして
おまえらがどうなろうとも最後まで見届けてやるからよ
いっそ派手にぶつかんな
タバコの煙の向こうで笑うは相変わらずリョーマとは異なっていた
2002年11月23日