惹かれたのは
跡部君の隣にいるときに見せた穏やかな笑顔
越前君の試合を見ているときの憎しみのこもった横顔
そして「嫌いだよ」と言ったときの泣きそうな顔



俺は越前の傍にいることを決めた





be inferior to the one





「あーぁ。今のは手塚君、傷ついちゃったんじゃないの?」
「傷つけるように言ったんですよ。俺、あの人嫌いだから」
「ふーん? 珍しいね、君がハッキリ好き嫌いを言うのって」
持っていたカプチーノとキャラメルのアイスを渡すと彼は小さく微笑んで
その顔を見ると、こっちに来て本当によかったなぁって思うんだよね
「何か、部長オーラバリバリ出してるところが好きじゃない」
「それなら跡部君もそうなんじゃないの?」
「跡部さんは別。大好き」
「・・・じゃあ君は部長らしくない部長が好きなんだ?」
うちの南とか、ルドルフの・・・赤澤だっけ? ああいうの
「そうですね。どっちかっていうと重厚な雰囲気や威圧的な人は好きじゃない」
アイスを紅い舌でペロペロと嘗めて
猫みたいって言うと「何猫?」って以前聞き返されたのを覚えてる
あのときは何て答えたんだっけ



隣にいると決めた瞬間、見えてきたものは多かった
素顔も本音も感情も
すべてが感じられるところに行けたんだ
けれど、触れることは出来ずに



食べ終わったコーンの包み紙を受け取って
丸めてゴミ箱へシュート
入るのは俺の腕はもちろんラッキーもプラスされているから
そうして空いた手で手を繋ぐ
「今日はどこ行こうか」
「千石さん、新しいスポーツショップがオープンしたって言ってませんでした?」
「言った言った。じゃあ渋谷だね。レッツゴー!」



休日は一緒に出かけることが多くなった
女の子の誘いさえも断ってだなんて、本当にどうかしちゃったんじゃないかって自分でも思うくらい
南や室町君、壇君にもさんざん不思議がられたし
でもさ、傍にいたいんだ
君の傍に



素顔も本音も感情も見ることが出来るようになって
彼がどんなに繊細かを知った
どんなに弱くて泣き虫で
どんなに強くて立ち向かっていくのかも
やっと、知ることが出来たんだ



跡部君がこの子を守りたいと思う気持ち
俺、今なら判るよ



越前リョーマの傍では
きっとこの思いは感じられない
だって二人は別の人間だから
越前リョーマと越前はまったく別の人間だから
だからダメ
同じ気持ちは感じられない



俺を揺り動かすことが出来るのは君だけだから



だから今
俺は君の傍にいる



「・・・手塚さん、『ショック受けました』って顔してましたね」
一度終わったはずの話題
盛り返すときは気になってるとき
「言われたことなかったのかな、青学で」
「なかったんじゃないの? あそこ、結構ベタベタだからさ」
「ベタベタ?」
「コートに私情を持ち込むくらい甘いってこと」
越前リョーマはちょっと違うかもしれないけどね
黄金ペアもどちらかが大きく損なわれると、もう機能しなくなると思うし
不二君も手塚君も私情絡みでコートに立つことが多いし
俺は一人でも勝ち進んでいくことを選ぶタイプだからさ
根本的に違うのかもしれない
「たしかに、仲間意識が強いですよね」
「良く言えば美しい友情、悪く言えば他者依存症」
一人で戦えないのならコートに立つ資格はないと思うけど
ま、強ければそれでいいけどね
倒すだけだからさ



君の傍に行って気付いたのは
氷帝の確固とされた個人主義
勝てば官軍を地で行くような実力主義の部活ではたしかに当たり前かもしれないけどさ
基本的にメンタル面が強い
俺は俺の力で勝ち抜くぞ、って感じの意気込みがひしめいている
そしてそれは君も同じ



越前リョーマに立ち向かう君も同じ



だから俺たちは決して前に立つことはなくて
隣にいるか後ろから支えるか
そのどちらかしか選ばない
選べないんじゃない
選ばないんだ
このゲームは君のものだから
俺たちが手を出すわけにはいかない



俺たちはただ君が休息を求めたときに、傍にいられれはそれでいいんだ



俺たちはいつでも君の傍にいるよ
それだけを忘れないで



越前リョーマの影に脅える君を僕らはずっと愛しているから
だから幸せになって
誰よりもきっと



「来週はラーメン館に行かない?」
「あー・・・ごめんなさい。来週はすでに先約があるんです」
「誰?」
「立海の切原さん」
「切原ってあの?」



俺は正直言って切原はあんまり好きじゃない
だってアイツは君の傍にいるけれど君を守ろうとしているわけじゃないから
どちらかと言えば逆
君が傷付き苦しむのを見たいがために、こっちにいるだけに過ぎないから
だから俺はアイツが嫌い
いつか絶対に殴りそうな予感もするし



「俺は、嫌いじゃないんですよ。切原さんのこと」
君が笑う
隣にいるようになって初めて知ることの出来た柔らかい笑顔で
「あの人はヒドイ人だけれど、嫌いじゃないんです」
「・・・・・・君は物好きだねぇ」
「そうかも」
クスクスと笑うから俺もせめて笑顔を浮かべて
今日は思い切り楽しもう
明日のことさえも考えられなくなるくらい
遊んで遊んで遊びまくろう
そうしてまた羽ばたいて



君の傍に俺はいるから
泣かないで
君の背中に翼がないんじゃない
ないと思ってしまっているだけ
君なら飛べる
大空を飛べるから
どうかその羽で羽ばたいて
そのための支えに、俺はなるから



この子を守りたいって気持ち、今ならよく判るよ



出会えてよかった





2002年11月20日