「勝ったけど」



リョーマの一言は俺たちの戦いの終わりを告げた





the going is not bad





崩れ落ちた日吉先輩
落胆と失望の声を上げる部員たち
涙声で黄色いエールを送る同校の女子生徒



俺たちの戦いは終わった



整列する先輩たち
涙を流す鳳さん
深く俯いたままの日吉先輩
まっすぐ前を向いた跡部さん



俺たちの夏は終わった



被っていたナイキのキャップを脱いだ
きつく、手のひらで握り締めて
唇を噛み締める



互いの挨拶が終わって
俺たちの負けが宣言されて
アイツらが、笑う



その笑みを浮かべるのは俺たちだったはずなのに



俺が
俺が、出ていれば
俺がリョーマと試合をしていたら
そうしたら、きっと



静まり返ったコートで片付けをしている選手たち
俺は階段を一段下りた
二段
三段
近くなっていくコート
近くなっていくリョーマ



「・・・・・・・・・」
ラケットを仕舞っていた鞄から顔を上げたリョーマ
帽子も被っていない俺たちは本当によく似ている
視線がウザイよ
菊丸さんだっけ? アンタだけじゃなく他の奴らも
跡部さんと試合をした人も、芥川さんと試合をした人も
そんなに双子が珍しいの
そんなに俺とリョーマがそっくりなのが不思議なんだ?
バッカみたい



背の低いゲートを越えて
青と白のジャージを着ている相手の前に立って
まだ息を切らせているリョーマ
日吉先輩との試合、そんなに楽しかった?



無様だね、リョーマ



、俺・・・・・・」
少しだけ顔を歪ませてリョーマが俺の名前を呼ぶ




俺は影さえも触れ合わさせずにリョーマの横を通り抜けた



話すことなんて、ない



鞄をいつものように樺地さんに持たせて、跡部さんがこっちを見ていた
その視線を受け止めて
忍足さんや向日さんに笑みを浮かべて見せて



後ろでは唖然とした空気が感じられて
リョーマはまだ振り向けずにいるみたい
ホント、無様だね
俺が賞賛の言葉をかけるとでも思ったんだ?



俺が、リョーマなんかに



パチン、と跡部さんが指を鳴らした
歓声の合図
たとえ戦いが終わっても、俺たちは間違いなく強者だった
―――――――だから



「氷帝!」



声を張り上げて叫べるよ



「氷帝・氷帝・氷帝!」



俺の居場所は“ここ”なんだと



だんだんと重なって大きくなっていく声
宍戸さんに背中を押されて
日吉先輩の隣に立って
鳳さんが握ってきた右手を力強く握り返した
振り向いて笑う跡部さんは
紛れもない王者だった



俺たちは強い
俺たちは強い
俺たちは最高のチームだ



戦いは―――――――――終わった



振り向きもせずにコートを後にして
今後の展開なんて知りたくもない
リョーマが勝とうが負けようがどうだっていい
俺には関係のないことだから



テニスコートにおける俺とリョーマは決して相容れることなんてないのだから



互いに敵
倒すべき相手
一瞬の感覚だけは共有できるかもしれないけれど



それももうない



「・・・・・・悪かったな」
かけられた声に上を向いた
「全国、連れて行けなくてよ」
跡部さんが悲しそうに笑うから
俺は何度も何度も首を横に振って
「・・・・・・、全国の奴らに見せびらかしたかったなぁ・・・」
向日さんが俯いて頬を擦るから
俺は小さく唇を震わせて
「・・・・・・これでもう終わりなんやなぁ」
忍足さんが青空を見上げて呟くから
俺はアスファルトを見つめて目を閉じて
右手を握る鳳さんの力がいっそう増した



これで もう おわり



俺たちの夏は終わってしまった
俺たちの戦いは終わってしまった
一緒にテニスできる機会はもうない



「・・・・・・・・・楽しかった、ね」
芥川さんが目に涙を溜めるから
「楽しかったか?」
宍戸さんが苦笑しながら聞き返すから
「楽しかったですよ」
「ウス」
「・・・・・・楽しかったです」
鳳さんも樺地さんも日吉先輩も頷くから



泣きそうになったんだ




前を歩いていた榊監督が立ち止まって振り向いて
その顔は沈み始めた太陽に照らされて見えなかったけれど
「来年は必ず我々が勝つ。それを決して忘れるな」
聞こえた声は優しかった



「はい!」



―――――――――あぁ
よかった
ここにいて本当によかった
胸を張って言える



“ここ”が俺のいたい場所なんだと



ざわめきの残るコートにも
上に進んでいく対戦相手にも
未練はない
俺たちは始まったばかりなのだから



俺たちはどこまでも走っていける
紛れもない王者なのだから





2002年11月18日