「オチビ・・・・・・?」
聞き覚えのない声
ってことはリョーマの知り合いか
俺はゆっくりと振り向いた



その呼びかけは俺に対してじゃないでしょう?





there are wheels within wheels





青と白と赤のジャージ
SEIGAKUってロゴの入った
リョーマの証



外はねクルクルの髪、頬の絆創膏
見たことあるような気がしなくもない
確か青学ダブルスの一人だったはず
忍足さんが言ってたっけ



戸惑ったような表情
俺がリョーマじゃないって分かったんだろうね
それもそのはず
だって俺は青学のライバル校のジャージを着てるから
アンタの知ってる越前リョーマとは別人なんだよ



あぁ早く帰らなくちゃ跡部さんの機嫌が悪くなる
でもいいか、ちょっとだけ
誤解されたままっていうのはムカツクしね



「リョーマの知り合いですか?」
俺はにこやかに笑ってみせた
リョーマには絶対に出来ない顔で
リョーマの嫌いな笑い方で
「間違えるのも無理ないですよ。俺とリョーマは双子ですから」



俺と同じリョーマ
リョーマと同じ俺
外見上に大きな差異はない



「え・・・? うそ、双子?」
「そうですよ、似てるでしょう?」
「うん! マジでソックリ! クローンみたい!」



クローンだったらどんなに楽なことか
一人はオリジナルの真似をするだけで済むんだ
あぁなんて素敵



だって俺とリョーマは似すぎている
顔も声も思考も嗜好も
「ソックリだね」なんて何度言われたか



俺はそれを心底拒むけれど



「リョーマを探してるんですか?」
「そうそう。オチビってば休憩だからってどっか行っちゃって」
「たぶん人の少ない木陰にいますよ」
行動パターンなんてお見通し
「ホント!? 双子ってそんなことまで分かるんだ!?」



わかるわけないじゃん、そんなこと



俺とリョーマが双子だから
俺とリョーマが同じだから
だからって全部わかると思ってんの?
それって俺、嫌いなんだけど
最も嫌いなタイプに分類しちゃうよ?



左手を伸ばして耳に触れさせた
そこには固い感触
ピアスはまだ俺の耳にある



大丈夫
俺はリョーマじゃない



あぁそろそろ戻らなくちゃ
跡部さんがきっと怒ってる
でもそれ以上に心配してくれてる
あの人は本当に優しいから



「それじゃあ俺、戻りますんで」
これ以上話すことはない
「うん、オチビによろしくー!」
誰がよろしくすると思う?
「俺より貴方の方が先に会うでしょう?」



苦笑してから背を向けて歩き出した
その俺に笑顔はもうない
浮かべる必要もないのだから



早く
早く行かなくちゃ



リョーマのいないところへ



「ね! ちょっと待って!!」
後ろからかけられた声
しつこいな、まだ何か用?
振り向けば追いかけてくるさっきの男
その顔にはやっぱり戸惑った表情



走ってきたかと思うと、俺から3メートルの位置で止まって
意識的か無意識か知らないけどイイ判断だ
何があっても対応できる距離
それだけ俺が危険だってこと?



「おまえ・・・・・・・・・リョーマのこと嫌いだろ」



何かと思えば真剣な目でそんなこと
ふーん
本能か何だか知らないけどイイ感してる
だけどさ、俺にそんな目を向けるんだ?
俺にそんなこと言うんだ?



俺にそんなこと言っていいと思ってるんだ?



「勝手に名前で呼んでんじゃねーよ、バーカ」



俺は笑って言ってやった
リョーマの嫌いな笑い方で
案の定目の前の男は目を見開いたけど
でも撤回なんかしてやらない



リョーマの名前
俺の名前
許可なく呼んでいいなんて誰が言った?



「アンタは知らないでしょうけどね、リョーマも俺のことが嫌いなんですよ」



軽く笑ってそれだけ言って
俺はその場を後にする
いい加減戻らないと樺地さんが探しに来ちゃうし
早く帰らなくきゃ



後ろではさっきの男も去っていく気配がして
そうそう、さっさと帰った方がいいよ
アンタはリョーマ側の人間なんだから
俺の側にいてはいけない
リョーマの側にいればいいんだ



俺じゃなくてリョーマの側に



どうして俺とリョーマは同じなんだろう
どうして俺とリョーマは異なるんだろう
いっそのこと同じだったらよかったのに



俺はそれを心底拒むけれど



俺とリョーマ
リョーマと俺
誰にも邪魔なんてさせやしない
俺とリョーマの邪魔なんて



俺たちの世界の邪魔なんて決して誰にもさせやしない



だって



俺とリョーマは唯一なんだから





2002年10月6日