あなたが笑う。名を呼び、手を差し伸べてくれる。
その手に触れ、名を呼び返す。共に笑う。
それは何て甘美な。

何て甘美な――――――夢。





世界中の愛を、君に





の目が覚めたとき、目の前の鏡は消えていた。
(・・・・・・これで、いいんだ・・・・・・)
涙で真っ赤に腫れた目を擦って、笑う。
そしてまた泣いた。





クリスマス休暇が終り、帰宅していた生徒たちもホグワーツへと戻り始めた。
ホグワーツエクスプレスは何度かキングクロス駅とホグワーツを往復し、生徒たちを送り届けている。
そんな中に、はいた。
!」
人波の中から名を呼ばれ振り向くと、こちらへと走り寄ってくる少女。
目の前に来るのを待って、笑顔を浮かべる。
「久しぶり、ハーマイオニー」
「久しぶりね、!あなたも今日戻ってきたのね」
「あぁ。家にいるのも暇になってきたから、そろそろかなって思って」
ふざけたように笑みを漏らす。
そうして二人一緒のコンパートメントに乗った。



車内販売の女性からお菓子を少しばかり買って二人で食べた。
お互いの休み中にあったことや、もうすぐ習うであろう授業のこと。
ロンとハリーは元気でやっているかとか、チェスが強くなっているだろうか、とか。
は淀み無く話し、そして相手の話もしっかりと聞いて。
時折、目を伏せて小さく笑う。
まつげが、頬に影を作って。
そんな仕草にハーマイオニ─はドキッとした。
何かが、違う。
「・・・・・・、あなたこの休みに何かあった・・・?」
戸惑うような言葉に、は顔を上げて笑う。
「何かって・・・特に何もないけど、どうして?」
今度はハーマイオニ─が言葉に詰まった。
視線を横に泳がせて、迷った末に口にする。
「何だか休み前と雰囲気が違うから・・・・・・」
口角をあげて、微笑んだ。
そんな相手にハーマイオニ─は慌てて手を振って否定する。
「違うの!ごめんなさい、何だか変なこと言っちゃって・・・・・・」
「いや、気にしないで」
(何かあったのは紛れもない事実だから)
本音を隠して、は笑った。
学校が始まる。



新学期が始まるとハリーはクイディッチの練習で、ハーマイオニーとロンは「ニコラス・フラメル」について調べるのに忙しく、は割合と静かに時を過ごしていた。
本来ならばロンたちを手伝っても良いのだけれど、ニコラス・フラメルは旧知の人物。
答えの知っている問いを知らないかのように振舞って見つけようとするのは面倒くさい。
心中でそう思っては「一緒に探そう」という二人からの誘いを丁重に辞退していた。
けれど災難というものは避けようとすればするほど降ってくるものなのである。
目の前で行われた光景には額に手を当てて溜息をついた。
「・・・・・・・・・ミスター・マルフォイ」
「おや、これはこれは」
ウサギ跳びで逃げていったネビルを嘲笑っていたドラコが笑みを湛えたまま振り返る。
そんな表情がルシウスそっくりで、は思わず顔を歪めた。
「・・・・・・むやみに魔法をかけるなよ。取り返しのつかないことになったらどうする」
「この僕が失敗すると言うのかい?」
「しないという保障はないだろ」
の言葉にドラコは眉をひそめ、そしてに食って掛かろうとしたクラッブとゴイルを顎で制す。
「おまえたちは先に寮に戻ってろ」
戸惑う二人を睨んで去らせると、その場にはとドラコの二人だけが残った。
図書館の外、外に面したこの場所に人はめったに来ない。
は知らず、唇を噛んだ。
(・・・・・・・・・面倒くさい・・・)
正直、休暇を終えてホグワーツに戻って以来はそう思うことが増えていた。
ドラコに対してだけではない。ハリーに対しても、ロンに対しても、ハーマイオニーに対しても。
ほとんどの事情を知っているダンブルドアとは鏡の件で口論をして以来会っていないし、ミネルバや他の教師は事実の欠片しか知らない。
彼らとはまた違った欠片を有しているセブルスとも、ここ数日授業以外では会っていなかった。
すべてが、面倒くさく思えてきている。
あの、鏡に出会ってから。
愛する人物を、見てしまってから。
(これじゃ悪夢にうなされるハリーと一緒じゃん・・・)
あからさまに溜息をついた。
それに言葉を発しようとしたドラコの先手を切ってが話しかける。
「お父上は・・・・・・ミスター・ルシウス・マルフォイはご健勝で?」
にこやかな笑顔にドラコは胡散臭げに眉間にシワを寄せる。
「・・・・・・父上を知ってるのか」
「まぁね。ちょっとした繋がりでお世話になったことがあって」
(最後に会ってからもう二十年近くになるけど、まぁ同寮で先輩後輩の仲だったわけだし?お世話にはなってるかな)
昔を思い出して、少しだけ笑う。
(いつかルシウスにも知られるだろうから、ならば先手を打っておいてもいい)
「今度家に帰ったら聞いてみるといいよ。俺からも『よろしく』って伝えておいて」
馴れ馴れしささえ感じる伝言に、ドラコは先ほどよりも不審気にを眺める。
今ここにいるのは誰なのかと、見定めるように。
そんな相手には笑った。
「俺は、ただのガキだよ」



中身は少しも成長していなかったと、知ったばかりの。





2006年2月22日