あなたが名を呼んでくれるなら。
あなたが愛を囁いてくれるなら。
あなたが甘く微笑んでくれるなら。
あなたが優しく触れてくれるなら。
それなら、俺は俺は。
俺、は。
世界中の愛を、君に
───────ダメだ。
ダメだダメだダメだ。
行ったら、戻れない。
誰がそんなことを望む?
もう過去のことなんだ。
もう会えない人なんだ。
だから、ダメ。
会えたとしてもそれは幻でしかない。
幻で、しかない。
幻でしか。
――――――――――――幻でもいいから会いたいよ。
ついさっきハリーに教えられた場所。
廊下を辿らなくても意識さえ集中させればすぐそこに行ける。
本来、ホグワーツでは使えないはずの「姿現し」を使って。
今すぐ、行ける。
今すぐ・・・・・・会える。
「なんだよ・・・・・・おまえは、こんなに弱かったのか・・・・・・・・・?」
自嘲気味な声がやけに耳につく。
それが真実味を帯びているからこそ頭に来る。
判ってる。自分は強くない。
強くないんだ。
「・・・おまえは、俺のことを強いって言ってたよな・・・・・・」
泣きそうに声が震える。
全身を何かが駆け巡っているようだ。
それに抗うように熱く鼓動する心臓。
「でも俺、無理だよ・・・ダメだって判ってるのに、おまえじゃないって判ってるのに・・・・・・」
涙が頬を伝う。
「それでも・・・・・・っ・・・会いたい、なんて・・・・・・・・・っ」
ボロボロと音を立てて滴が床に溢れた。
罪でもいいから、会いたい。
体が自分のものではないようだ。
指先が、扉を開ける。
目が、机や棚を視覚する。
意識だけがぼんやりと暗闇を泳いでいた。
大きな、鏡。
頭は見てはいけないと叫んでいるのに
体はまっすぐに鏡へと歩み寄る。
じゃあ心は?
心は、何を望む?
「・・・んなの、決まってる・・・・・・・・・」
指がひんやりと鏡に触れた。
最後の抵抗として閉じていた瞼をゆっくりと押し上げる。
黒髪に黒い目の幼い自分。
ぐにゃりと揺らめいて、姿が変わった。
浮かび上がった影。
望むのは、あなただけ
涙が溢れる。
だけど拭えない。拭ったらこの幻が消えてしまうかもしれない。
どんどんと頬が濡れて、シャツが濡れて。
鏡に寄り添うように近づいた。
浮かぶ、姿。
愛しい人。
唯一人
愛してる人
ゆらりと鏡が歪んで、また他の姿を写し出した。
一人、二人。
浮かんでは消えていく友人たち。
穏やかに微笑んでサヨナラを言った。
泣き叫んで引き裂き別れた。
別離が来るのを知っていて言えなかった。
生きてきた分だけ親しくなった人たち。
愛も憎悪も優しさも哀しみも
全部全部この人たちから教わった。
どんなに悲しくても辛くても、大切なことに変りはない。
どんなに、時が過ぎても。
「・・・なぁ・・・・・・」
口元から笑みが漏れる。
笑いたくなんてないのに、でも笑う以外にどうすればいいのか判らない。
「おまえらズリィよ・・・・・・。なんでさ、俺を置いていっちゃうわけ・・・・・・・・・?」
子供みたいな文句。そんなの判っている。
別れたくて別れたわけじゃない。
いきたくていったわけじゃない。
それでも。
顔中を涙が濡らす。
これ以上ないほどに悲しみが溢れる。
祈るように、冷たい鏡に縋り付いた。
「・・・・・・死にてぇ・・・・・・・・・っ・・・」
年老いていく友達。
時が来れば幼くなってしまう自分。
みんなは死へとゆるやかに向かっていくのに。
自分だけ。
自分だけが、この輪廻を繰り返す。
そうして見送ってきた。
数々の友と・・・・・・・・・・・・・・愛しい人を。
これが咎なら、自分はなんて愚かなことをしたのだろうか。
一生かけても償うことの出来ない罪。
けれどそれは愛だった。
自分は彼を愛していた。
だから。
だから。
最初に映った姿が再び現れて、力なくぼんやりと相手を見つめる。
変わらない笑み、揺れている髪。
振られる手、伸ばされる腕。
すべてが愛しくて大切だった。
今も、なお。
名前を呼んで。
好きだと言って。
甘く笑って。
優しく触れて。
俺のそばに、いて。
2004年12月7日