わたしは あなたの かお ではなく あなたの こころの のぞみ をうつす





世界中の愛を、君に





乱暴に「姿現し」を使ったから着地が上手く出来なかった。
校長室の床へと腰を打ち付けて、けれどは痛みさえも感じないほど焦っているのか、すぐに起き上がってダンブルドアに詰め寄った。
「アルバス・・・・・・っ! なんであの鏡がここにあるんだよ!?」
真っ青に顔色を変えて、震える手で机を叩いて。
「あれは闇の魔法だからっ、闇属性だから処分しろって言ったろ!? なのになんでまだ取ってあるんだ!?」
カタカタと歯が噛み合わない。体が、まだ震えている。
シャツ一枚では寒い季節だけれど、この震えはそんなものではなかった。
近い。近くにあることを感じる。鳥肌が立つ。
「俺の言うことを聞かなかったのか!? アルバス・ダンブルドア!」
思い切り机を叩いた。その衝撃に羊皮紙が揺れて、ヒラリヒラリと床へ落ちる。
静かな部屋に、の荒い息遣いだけが響いて。
「――――――
しわがれた、けれど重厚な声がそれを打ち消す。
「今このホグワーツの校長は、君ではなくわしじゃよ」
「・・・・・・・・・・・・・・っ」
・・・・・・息を呑んで、は悔しさに唇を噛み締めた。
哀しげな、諭すような言葉に。
何も言えることがなかったから。



「・・・・・・・・・?」
廊下でかけられた声には振り向いた。
驚いた様子でこちらへと走り寄ってくるのは先ほど脳裏で見たままのハリーで。
足を止めて、彼が来るのを待った。
、どうしたの? 今はクリスマス休暇で戻ってるんじゃなかったっけ?」
「・・・・・・・・・あぁ。ただちょっと、忘れ物しちゃって」
動揺を上手く隠せたなんて思わない。ましてや相手はハリー、あのジェームズとリリーの息子だ。
(他人の感情には敏感な方だろうしなぁ・・・・・・)
そっと躊躇いがちに伸ばされた手に、やっぱりと思った。
「どうしたの、・・・・・・? 何か、辛いことでもあった?」
覗き込んでくる瞳は、古き女友達と同じ色をしていて。
視界を散らす黒髪は、古き大切な友と同じ質をしていて。
・・・・・・・・・涙が、出そうだった。
「―――――?」
急に抱きしめられてハリーは不思議そうに名を呼ぶ。
「・・・・・・ハリー」
「うん?」
「・・・・・・元気?」
「? ・・・・・・うん」
返ってくる声は昔聞いたものとひどく似ていて。だからこそ拍車がかかる。
泣きそうで、でもここで泣くことは出来なくて、必死で唇を噛んで堪えた。
そんなを見かねてハリーが口を開く。
「・・・・・・・あのね、。本当は内緒なんだけどにだけ教えてあげる」



コトリと、音が鳴った。



「見たら、きっと元気になれるよ。すごく幸せな気持ちになれると思う」
―――待って。
「僕はもう行けないから、一人で行って?大丈夫、怖くなんてないから」
―――待ってお願い。言わないで。
「『みぞの鏡』って言ってね、その人の一番強い“のぞみ”を見せてくれるんだ。それはきっと、の力になれるんじゃないかな」
―――言わないで、言わないで。どうか頼むから誘惑しないで。
抱きしめる腕に力を込める。
けれどそれをどう受け取ったのか、ハリーは穏やかな声音で言った。



「図書室脇の細い通路、そこにある大きな鎧のドアだから」



―――――――――言わないで、欲しかったのに。





2004年9月14日